安倍晋三首相がモスクワでプーチン大統領と会談し、北方領土交渉の再スタートで合意した。ロシアの対日接近を択捉・国後の帰属問題をめぐる交渉につなげ、行き詰まりを一歩でも打開させたい。
両首脳は北方領土交渉の「加速化」や外務・防衛閣僚級協議の立ち上げを柱とする共同声明を発表。領土交渉が停滞する日ロの共同声明は二〇〇三年の小泉純一郎首相訪ロ以来十年ぶりである。
ロシアが対日関係改善に舵(かじ)を切った背景には米国発の「シェール革命」がある。同革命進行で石油、天然ガスのエネルギー資源に過度に依存したプーチン戦略が、中長期的に破綻する可能性すら否定できないからだ。
ロシアが独占していた欧州のガス市場は、米国市場から締め出された中東などの安価な液化天然ガス(LNG)に侵食され、大市場の中国とは価格交渉が難航中だ。一気に存在感が高まったのはLNG需要が急増した日本だ。
だからといって北方領土交渉では楽観は禁物だ。通算約十三年間、事実上の最高権力者の座にあるプーチン氏は強固な支持基盤を誇った時でも、択捉島と国後島の帰属問題の交渉に応じる姿勢を示したことは一度もない。ロシアの狙いは、領土交渉を誘い水にして、経済大国日本への天然ガスの輸出や極東への投資など、経済協力の大幅な拡大にあるとみられる。
そうした期待に応え、首相訪ロでは経済界から過去最大規模の企業関係者が同行、自社製品を売り込む。日本政府は、ロシアとの経済協力を北方領土問題進展に向けた「環境整備」と位置づける。
しかしながら、経済関係強化を領土解決につなげる「出口論」には致命的弱点がある。経済協力が大幅に拡大しても、北方領土問題解決に向けた「環境」が整ったかを判断するのは、ロシア側だからだ。ロシアには、日本の領土要求は形だけで、本音は対ロビジネス拡大だとの見方もある。
またロシアが日本企業の投資拡大を望むなら法の支配確立に向け実効性のある対策を示すべきだ。
日ロは領土交渉を「これまでの諸文書及び諸合意に基づいて進めること」で合意した。今後必要なのは、主要文書である「東京宣言」で明記された、四島の帰属問題の交渉を行う枠組みづくりだ。第二次大戦の結果を不動のものとするロシア側の姿勢について議論するのも重要だ。成果を焦らず、腰を据えて取り組むべきだ。
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