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努力を表すことわざに「点滴岩をうがつ」がある。陸上の男子100メートルも、その言葉を地でいく。国際陸上競技連盟ができた1912年、世界記録は10秒6だった。人類は1世紀をかけて1秒余を縮めてきた▼均(なら)せば1年に約0・01秒。岩をうがつ思いの努力だろう。日本記録が10秒台に入ったのは大正14年だった。88年をへていま、9秒台への期待が高まる。一昨日の17歳の走りは、世界記録保持者のボルト選手を稲妻にたとえるなら、流れる風を思わせた▼京都の高3、桐生祥秀(よしひで)選手。10秒01は日本歴代2位ながら、伸び盛りの勢いがある。専門家によれば中盤の速度がすばらしいそうだ。もう一人の有望株に慶大の山県亮太選手もいて、今季、陸上ファンは熱い▼最速レースへの興味は「100メートル」を「10秒」という、分かりやすい数字に負うところが大きい。記録上の数学的な美の極致、と言う人もいるほどだ。その数瞬間に、磨き抜いた肉体と精神が凝縮される▼凄(すご)みも華もそこからくる。最高の舞台はむろん五輪の決勝だろう。決勝に進んだ選手を敬意とともに「ファイナリスト」と呼ぶ。陸上短距離ともなれば、それは称号に近い響きで選手を飾る▼人類が10秒の壁を破って45年。黒人選手の強さはめざましく、これまで9秒台で駆け抜けた80余人は、ほぼ彼らが占めている。この先日本人が五輪決勝のスタートに立ち、それを見るときのわくわく、どきどきを思えば浮き立つ。意外に近い、そんな気もする。