日本の環太平洋連携協定(TPP)交渉参加に向けた日米協議が決着、七月参加のメドとなった。交渉は互いの立場を尊重しないと成立しない。日本は率先して柔軟なルールづくりにも動くべきだ。
TPPはシンガポールなど四カ国が二〇〇六年に発効させた。そこに米国や豪州などが加わり、現在は十一カ国で拡大交渉が行われている。日本の参加は全交渉国の同意が必要で、米国の出方が最大の焦点だった。
二月の日米首脳会談で、残された懸案事項として自動車や保険問題などが確認され、米国が輸入乗用車やトラックにかけている関税を当分は維持し、保険もかんぽ生命の新商品申請を日本政府が当面認めないことで合意した。日本車の輸入急増などを警戒する米国の要求に日本が譲歩しての決着だ。
TPPは高水準のルールを目指して「例外なき関税撤廃」などを原則としているが、自由化が困難な品目について交渉を主導する米国自らが、過去の貿易交渉と同じようにTPP交渉を原則を緩める作業場にしたと言うべきだ。
ニュージーランドなど三カ国はなお態度を表明していないが、米国と足並みをそろえるとみられる。米議会の承認も必要なので、日本の正式参加は早くて七月の交渉からとなる。日米関係の再構築を力説する安倍政権は交渉にどう臨むべきか。何より重視すべきは力の弱い途上国の視点だろう。
オバマ米大統領は、二十一カ国・地域で構成するアジア太平洋経済協力会議(APEC)を土台に、アジア太平洋自由貿易圏構想を描いている。TPPは構想実現への入り口にすぎない。その先、照準を合わせているのは中国だ。
中国は世界二位の経済大国となり、百兆円をゆうに超える米国の国債を買い支えている。軍事的行動を広げる中国は、米国にとり安全保障上の脅威である一方で経済では欠かせない存在でもある。
中国が経済でも脅威とならないよう新ルールの網で包み込む。それが米国の戦略だ。しかし、関税全廃の原則から目をそらして「俺たちのルールに合わせろ」では途上国は戸惑ってしまい、中国を同じ土俵に引き入れることも難しくなる。
日本は一九九五年のAPEC大阪会議で、工業化の遅れなど各国の実情に応じた柔軟なルールを認める行動指針を提案した。自動車関税の即時撤廃を回避しようとする米国と途上国などとの仲介も、日本が担うべき役割の一つだ。
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