国土交通省が発表した公示地価で大都市圏を中心に住宅、商業地ともに下げ止まりが見えてきた。気がかりなのは東日本大震災の被災地や南海トラフ地震の被害想定地での生活を脅かす動きである。
今年一月一日時点の公示地価は、五年連続の下落となったが、全国平均の下落率は住宅地1・6%、商業地2・1%に縮小。東京、名古屋、大阪の三大都市圏は下落からほぼ横ばいに転換した。
地価はバブル崩壊の影響で一九九二年から二十年あまり下がり続けてきた。この間、底を打つ動きもあったが、リーマン・ショックで再び下落に拍車がかかった。長く続いた地価下落が収束すれば、政府が最重要課題とする「デフレからの脱却」を後押しすることになるだろう。
大都市圏では、低金利と住宅ローン減税の拡充による住宅需要の高まりと、アベノミクス効果を先取りしたような不動産市場への資金流入も目立つ。東京スカイツリーといった注目を集める集客施設や新駅など交通事情が良くなった地域は活況を呈した。
しかし、ひとたび目を東日本大震災の被災地や、南海トラフ巨大地震の津波による被害想定地に転じると、状況は一変する。
岩手や宮城県では地価の二極化が進行し、生活再建の行く手を阻む結果となっている。浸水域の多くは一段と下落する一方、移転需要が強い高台や被害が限定的だった地域は価格高騰に加えて物件が不足。つまり、被災者が住めなくなって自治体に買い上げてもらう所有地は値段が下がり、買いたい土地は高くなりすぎた結果、移転希望がかなわない例が増えているということだ。
建設業の人手不足や資材高騰で住宅価格も上昇し、追い打ちをかける。復興を急ぐのは当然ながら、さらに被災者を支える視点で適正な価格取引が維持されるよう国や自治体には指導を求めたい。
もう一つ、今回の公示地価で顕著に表れたのは、被災地以外でも今後の津波への不安が急速に高まっていることである。南海トラフ地震などで甚大な被害が想定される沿岸部の地価が下がり、内陸部は上昇した。
特に愛知県は住宅地の平均で五年ぶりに上昇に転じたが、最大七メートルの津波が想定される西尾市などの沿岸部は逆に下落幅が拡大した。震災以降、国民の意識に大きな変化が生まれた証しであり、恐れるだけでなく防災・減災につなげることこそが望まれている。
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