中国トップ7の一人で、汚職取り締まり担当の王岐山氏が、内部の座談会で、フランスの歴史学者のトクヴィルが自国の革命について書いた「旧制度と大革命」を読むよう、党員に求めたという。
王発言を一月中旬に伝えた人民日報は「貴族は地位に固執し、特権にしがみついて人民に関心を示さず、不平等を拡大させた」と、革命に至る背景を紹介した。
一九九〇年代以降、中国は市場経済化は推し進めながら、共産党独裁を支える政治の一元支配を強めてきた。
その結果、法治でなく党幹部による人治が横行し、特権層にばかり富が集中する格差の拡大という深刻な社会の病を生んだ。
八〇年代の改革開放は、一党独裁を見直す政治改革に手をつける段階にまで進んだことがあった。だが、八九年の天安門事件の後遺症から、〓小平は政治改革について「争論」を封じた。
汚職腐敗、格差、言論統制など中国を悩ます多くの国内問題の原因は、突きつめれば、批判や監督を許さぬ権力の集中にある。
新指導部は、王氏の危機感を政治改革へと踏み出す行動につなげてほしい。それがトクヴィルに学んで人民に心を寄せ、国際社会のルールを共有する一歩となる。
日中関係に目を移せば、七二年の国交正常化以降、最悪である。「友好」を唱えるだけでは良好な関係を保てなくなっている。
かつて出された知恵が、二〇〇八年の日中共同声明に明記された「戦略的互恵関係」だ。
貿易、エネルギー、環境など実利優先で協力を深めようとの考えだ。切っても切れぬ隣国同士である。対立があればお互い損をするだけなのは、今も変わらない。
そのうえで中国に注文もある。外交は内政の延長といわれるが、国民の不満の矛先を対外強硬策でそらそうとするなら、誤りである。中国軍による攻撃用レーダー照射は、許されざる極めて危険な行為である。
新指導部には、何より法治の大国を目ざしてほしい。大きく言えば、二十一世紀の世界の平和と安定がかかっている。
(論説委員・加藤直人)=おわり
※〓は登におおざと
この記事を印刷する