日本は米国主導の環太平洋連携協定(TPP)交渉参加を前に、欧州連合(EU)、中韓と相次いで貿易交渉に入る。互いに牽制(けんせい)し合う米中を結ぶ好機と受けとめ、アジア安定の役割を担うべきだ。
日本のTPP参加は米議会などの承認が必要で、交渉入りは七〜九月にずれ込む見通しだが、EUとの経済連携協定(EPA)は二十五日に東京で開かれる首脳会談で交渉入りが宣言され、日中韓の自由貿易協定(FTA)も二十六日にソウルで交渉が始まる。米とEUもFTA交渉を開始することで合意済みだ。
TPPなども自由貿易協定の一種であり、経済大国同士の交渉は「メガFTA」とも言われる。なぜ、世界経済を牽引する国と地域が一斉に交渉の席に着くのか。
米とEUを合わせた国内総生産は世界の約半分、貿易額も三割を占める。米・EUのFTA作業部会の最終報告書は、決まったルールは米・EUにとどめず、それ以外の国々の貿易にも資するルールを目指すとはっきり記している。
百五十を超える国などが加盟する世界貿易機関のルールづくりは中国やインドなどの協力が得られず、暗礁に乗り上げた。その危機感を背景に米・EUが打ち出したのが、二十一世紀の新たな秩序づくりを主導し、台頭する中国などを同じ土俵に招き入れる戦略だ。
米国のTPP戦略にも同じ狙いが込められている。関税の原則撤廃や知的財産権保護など二十一分野に上るルールを豪州などアジア太平洋の交渉国と合意し、中国に先んじてルールづくりの主導権を握ろうとの思惑が潜む。
中国はこれを日中韓FTAで迎え撃つ。さらに、東南アジア諸国と日中韓、インドなど十六カ国による東アジア経済連携協定の論議も本格化させている。自国に有利なルールづくりの争いだ。
日本は尖閣諸島問題などで米国を頼っているが、米国再生を目指すオバマ政権の輸出倍増計画が期待するのは成長する中国市場だ。日本も中国との関係を悪化させるべきではないという現実がある。
着目すべきは、TPPと日中韓FTA双方の当事国として唯一、日本が米中の間に割って入れる極めて有利な立場を手中に収めたことだ。
米中の間を取り持つには、中国と良好な関係を築いて独自の外交を推進する力量が問われる。難題だが、アジア安定のためにも、安倍政権に仲介役を引き受ける覚悟と外交力を求めたい。
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