HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 70663 Content-Type: text/html ETag: "1459ecd-19f3-caa6f800" Cache-Control: max-age=4 Expires: Fri, 22 Mar 2013 23:21:08 GMT Date: Fri, 22 Mar 2013 23:21:04 GMT Connection: close
北の先住民の中には、雪の色をいくつかに言い分ける人々がいるそうだ。豊かな氷雪の文化は、白さえも「薄切り」にしてしまう。ならば、日本人の目が利く色はどのあたりだろう。春の花に振り分けられる、白から赤にかけての一帯とにらんだ▼まずは紅白の両端を梅が固め、間を椿(つばき)や桃が埋める。そして今、南の花道から現れた桜前線が舞台の真ん中にどっかと座り、北上の間合いを計っている。赤と白の間には、灰桜、撫子(なでしこ)、珊瑚(さんご)色、薄紅梅(うすこうばい)など、和色の名が目白押しだ▼きのうの朝、近所の庭木でウグイスを聴いた。気象庁が発表した通り、桜並木はほぼ満開である。関東までの開花がいつになく早いのは、冬がきっちり寒く、春がしっかり暖かいためらしい。気温のめりはりが、桜を揺り起こす▼本来めでたい花だが、明るく咲きながら、せかされるように散る様が、かつては兵士と重ねられた。同じ営みがあの春以来、改めて鎮魂の色を帯びる。人と苦楽を共にしてきたこの花木に、私たちはもろもろを託す▼〈目を閉じて、ありったけのピンク色を思い出してみる〉。小欄を任されて間もなく、母の日にそう書き出したことがある。〈ありがとうは、何色(なにいろ)でもいい〉と。移ろう季節に寄り添い、はや七つ目の春。思い浮かぶ花色はずいぶん増えた▼〈どんみりと桜に午時(ひる)の日影かな〉惟然(いぜん)。「ありがとう」がよく似合う花の下、今年も浮かれる人がいて、祈る人がいる。淡くかすんで、桜色としか言いようのない花の下で。