見上げれば、空はかすんでいる。全人代でも大気汚染、環境が大きなテーマに浮上した。
北京市の分科会で、徐和誼代表は「北京の大気汚染は国家イメージの問題だ」と声を張り上げた。自動車メーカー会長でもある徐氏はエコカーの普及も訴えた。
日本の自動車の場合、排ガスの有害物質削減は技術革新で成し遂げた。中国はその途上にあるのかもしれない。
分科会後の記者会見では「汚染で命を縮めてまでお金を稼いでどうする」と厳しい質問も飛んだ。女性記者は「代表の皆さんは高級車に乗るでしょうが、私はタクシーではなく地下鉄で会場に来ました」と声を詰まらせた。
発展の高揚と同時に、市民の多くは泣いているのである。党や政府が環境汚染に対する危機感が薄いとすれば、問題は深刻だ。
中国政府は二〇一一年の報告で「北京、上海など対策重点地区の八割以上で大気の安全基準を満たしていない」と認めている。
北京では健康に有害とされる微小粒子状物質PM2・5の測定値が日本の環境基準の十〜十五倍もの日が続く。肺がんの発症率は爆発的に増えている。
温家宝・前首相は全人代で「決意を固めて大気、水質、土壌など大衆の切実な利益に関わる環境汚染を解決する」と訴えた。
だが、主たる汚染源の石炭ばいじんを減らす抜本策は描けていない。工場の一時操業停止などは応急措置にすぎない。
巨大な中国の環境汚染は周辺国にも悪影響を与えている。国際問題にすらなりつつある。
党や政府と関係の深い工場などが環境規制を守らず、従って当局も厳しく監督していないというのであれば、もはや論外であろう。
温氏は「発展なしでは何事も成し遂げられぬ」と訴えたが、汚染は成長優先のつけでもあり、実は政治のありようを問うている。
成長を減速させても命を守る政治へ。民衆の目は、厳しくなりつつある。 (論説委員・加藤直人)
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