全人代の地方分科会は徐々に公開が進んでおり、外国人記者も積極的に取材をしている。
注目された広東省分科会で、省トップの胡春華氏は週刊紙「南方週末」の記事差し替え問題に触れなかった。傍聴した国内外二百人余の記者は落胆していた。
胡氏は、十年後に習近平総書記を継ぐとも期待され、次代を担う改革派と目される。だから、言論統制について、省トップとして考えを示してほしかったのだ。
中国憲法は、公民に言論や出版の自由を認めている。現実には、党宣伝部がメディアを検閲し統制している。
広東省はかつての改革開放のように、中国の政策の実験場といわれる。香港から自由な民主の風が吹き込んだ地でもある。
一足飛びに言論の自由を進めるのは無理でも、言論の重要性を問う動きは日々増している。
中国の民主化運動を振り返れば一九七八年、壁新聞が張り出される「北京の春」で芽吹き、八九年の天安門事件で最高潮に達した。「南方週末」の問題では天安門以降、市民社会で言論の自由が初めて正面から論じられたといえる。
今の中国は、誰が指導者になろうとも、共産党の独裁が何よりも重要と考える体制である。歴代の指導者たちは「西側の民主化モデルとは違う、独自の民主を進める」と主張してきた。
だが、そんなことが本当に実現可能なのだろうか。自国の権力を批判できない民主主義なんて、あるのだろうか。
党や政府が報道統制で民衆に目隠しをし、政権安定を図ろうとしても必ず矛盾は噴き出す。ネット利用者は五億人を超えた。
今回は挫折したが、大きな一歩であった。人治をやめさせ法治を手に入れるため、言論の自由を守る闘いは続くだろう。それは誰にも、国にも共産党にも止められない。 (論説委員・加藤直人)
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