中国の庶民は「汚職腐敗を取り締まらねば国が滅ぶ。取り締まれば共産党が滅ぶ」と、声を潜めて皮肉る。それほど深刻である。
胡錦濤政権二期目の五年間に、汚職で立件された公務員が二十二万人近くに上った。取り締まりが厳しくなったせいかもしれないが一期目より九千人も増えた。悪弊は変わっていないのだろう。
全人代では、最高検の報告に対し、二割超もの批判票があった。汚職腐敗への対策がまだまだ手ぬるいと、強烈な不満を反映したものだ。
中国社会では、権力を利用して金をもうける「権銭交易」のあしき慣行が、残念ながら歴史的に根強い。
共産党一党独裁になり、権力が過度に集中していることが、さらに腐敗をまん延させている。
江沢民元総書記の三つの代表論が、原因の一つといわれる。国家と人民の根本的利益の実現をうたい、資本家に入党の道を開いたといわれる。現実には、権力を持つ党員に資本家への道を開いた。
つまり、権力の私物化である。すぐに金持ちになれる。
役人の権限が強いため、庶民の側にも、わいろを贈って私的利益を図ろうとする人も多い。
中国の街を歩くと、香りがよく度数の強いお酒の中でも特に高価な白酒や、高級たばこを買い取る商店を見かける。腐敗役人がわいろの品を換金しているのだ。
昨秋の党大会で、胡氏は汚職について「党に致命的な結果となりかねず、党の崩壊や国家の衰退の可能性もある」とまで述べた。
代表を前に、新首相の李国強氏は「公職についた以上、金持ちになろうという考えを断ち切らねばならない」と、言い切った。
冒頭の庶民の言いぶり、そのままである。世論による権力監視を強め、法治を徹底しなければ、共産党にとっての悪夢は、現実のものになりかねない。 (論説委員・加藤直人)
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