江戸時代の油売りは、油を入れた桶(おけ)を天秤棒(てんびんぼう)でかついで行商した。灯火に使う菜種油やイワシなどから取った安価な魚油や食用のごま油などを売り歩いたという▼油は粘りけがあって、しずくはなかなか切れない。客の器に移す間、客と世間話をして待った。はたからはサボって見える。転じて、無駄話をすることを「油を売る」と言うようになった▼しけが続き、関西から油を船で運べなくなり、油の価格が上がる現象は、「油切れ」と呼ばれ、江戸ではしばしば起こった。そのたびに騒動が起こり、世情は不穏になったという。燃料の安定供給が重要なのは時代を問わない▼先週、愛知県・三重県沖の海底にあるメタンハイドレートから、国は天然ガスを取り出すことに世界で初めて成功した。深海の海底下などに分布する「燃える氷」の埋蔵量は、この海域だけで日本が今、消費している天然ガスの十年分以上という▼資源の乏しい日本には待望の国産燃料だが、課題も大きい。海底の深くまでパイプラインを設置するには、巨額の設備投資が必要だ。液化天然ガス(LNG)を海外から輸入する費用の二、三倍とも推測されるコストをどこまで抑えられるかが焦点になる▼原発に依存しない未来を創るためにも商業化に期待がかかる。米国の「シェールガス革命」というお手本もある。技術立国の底力を見せてほしい。