HTTP/1.1 200 OK Date: Sun, 17 Mar 2013 20:21:03 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:週のはじめに考える 検証できないニッポン:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

週のはじめに考える 検証できないニッポン

 イラク戦争の開戦から十年。誤った戦争へと、なぜ突入したのか。米英など各国は検証作業を進めましたが、日本は例外です。それでいいのでしょうか。

 あの日から十年がたとうとしています。二〇〇三年三月二十日。日本時間で正午前、ペルシャ湾岸地域に二十八万人の兵力を展開していた米英軍が、イラクの首都バグダッドなどへの空爆を始めました。イラク戦争の始まりです。

 当時のブッシュ米大統領が掲げた戦争の大義は、生物・化学などの大量破壊兵器を開発・保有するイラクの脅威から、米国や国際社会を守るというものでした。

◆誤った大義で開戦

 しかし、どれだけ探しても、大量破壊兵器は見つかりません。

 大統領は翌年二月、開戦前に得た大量破壊兵器の情報が正しかったのか否かを調べるため、前上院議員や元連邦判事らによる超党派の独立委員会の設置に応じます。

 この委員会は一年以上かけて、米情報機関の情報収集・分析の在り方を検証しました。

 そして、開戦から二年後の〇五年三月、大統領に提出した最終報告書で、中央情報局(CIA)などの情報分析が「完全な誤り」だったことを指摘します。

 大量破壊兵器などなかったのです。

 誤った大義で始まった戦争は多くの犠牲者を出しました。

 非政府組織(NGO)「イラク・ボディー・カウント」によるとイラク戦争の開戦から、一一年十二月、米軍のイラク撤収までの死者は約十六万二千人。このうち約八割が民間人で、約四千人は子どもの犠牲者です。

 有志連合として参戦し、二百人近い犠牲を出した英国、大規模戦闘終了後、治安維持目的で派兵したオランダでも、独立の調査委員会がつくられ、派兵の是非をめぐる検証作業が行われました。

◆米英では首脳聴取

 小泉純一郎元首相は米英両軍のイラク攻撃を支持し、復興支援を名目に自衛隊を派遣しました。その判断は妥当だったのか。

 日本でも検証を求める動きはあります。世界平和アピール七人委員会のメンバーで、翻訳家の池田香代子さんらが呼び掛け人となった「イラク戦争の検証を求めるネットワーク」です。政府に対して第三者検証委員会の設置を求める活動を、〇九年から始めました。

 イラク開戦にも反対した池田さんは「日本には執拗(しつよう)に追及する文化がない。名古屋高裁は航空自衛隊のイラクでの活動を違憲と判断した。深刻に検証すべきだ。水に流してはならない」と話します。

 国会にも検証が必要だと考えていた議員がいました。その一人が民主党の斎藤勁(つよし)さんです。

 「自衛隊の海外活動、国際貢献の在り方が問われる時代、それを検証する国こそが、国際的に認知される国になると思う」

 こう語る斎藤さんは一〇年、第三者検証委員会の設置を求める議員連盟の会長に就きました。英国にも調査に赴きます。

 実は、国会では〇七年にイラクへの自衛隊派遣を二年間延長する際、衆院特別委員会が、開戦支持の判断を検証するよう政府に求める付帯決議案を可決しています。ただ、〇九年までの自民党政権時代、この決議は履行されません。

 政府側に動きがあったのが、民主党政権下の一一年八月末です。当時の松本剛明外相の指示で「検証」作業が始まったのです。

 しかし、この作業は外務省内の文書調査や職員の聞き取りだけでした。報告書も要旨が発表されただけで全文は非公表です。大統領や首相も聴取対象にして報告書なども公開している海外の検証とは大違いです。外務省のそれは、とても検証と呼べない。

 しかも要旨の発表は昨年十二月二十一日。衆院選で民主党が敗れた直後の政権交代期です。当時、内閣官房副長官だった斎藤さんにも説明はなく、寝耳に水でした。

 斎藤さんは「官邸の中にいて、何もできなかった。忸怩(じくじ)たる思いはある」と話し、こう付け加えます。「政党が非力だった。官僚が悪いというよりは、政党の側がしっかりしなければならない」

◆歴史に対する責任

 政府が動かないのなら、国会の出番です。福島第一原発事故では憲政史上初の国会事故調査委員会がつくられ、原子力行政機構の機能不全などを指弾しました。当時の菅直人首相らからも聴取し、報告書はすべて公表されています。

 イラク戦争も同様に検証できないか。政策判断の誤りを繰り返さないよう後世に引き継ぐ。今を生きる者の、歴史への責任です。

 政府の開戦支持に同調したメディアがある中、本紙は反対を貫きました。しかし、政府の支持表明や自衛隊派遣を止められなかった事実は重い。私たち新聞も検証の責任から逃れてはならないのです。

 

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