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奈良・東大寺二月堂の「お水取り」は関西地方に春の訪れを告げる。夜を焦がす籠松明(かごたいまつ)の写真が本紙に載った日、大阪本社版の社会面で気がかりなニュースを読んだ。奈良公園の観光名所、猿沢池を囲む枝垂(しだ)れ柳に謎の枯死が相次いでいるという▼青々と約30本あったのが、10年ほどで3分の1に減ったそうだ。猿沢池といえば、池越しに興福寺五重塔を望む風景で名高い。水ぬるむ春には柳の若葉を水面(みなも)に映して光っていた▼猿沢池と柳は切っても切れない。その昔、帝(みかど)の寵愛(ちょうあい)をなくした采女(うねめ=女官)が世をはかなんで入水(じゅすい)した。そのとき柳に衣を掛けたという伝説も残る。県も捨て置けず原因調査と対策に乗り出す。緑を早く取り戻してほしいものだ▼桜が春の花なら、柳は地味ながら春の緑を代表してきた。〈見わたせば柳桜(やなぎさくら)をこきまぜて都ぞ春の錦なりける〉。三十六歌仙のひとり素性(そせい)法師の一首は、平城京ならぬ平安京の春景色をうたって華やぎを伝える▼いまの都に目を移せば、東京の銀座かいわいでは柳が浅緑色に萌(も)えてきた。都心の桜もきのう開花した。観測史上最も早い記録に並ぶという。寒かった冬の罪ほろぼしか、春の巻物絵師は各地で急ぎ足である▼きょうは彼岸の入り。暖地なら「寒さも彼岸まで」だが、北国では雪を踏んで墓参りという所もあろう。南から北へ、この国の長さを思ってみる。柳が茂り、花は咲き匂う。春の美しさをたとえる柳暗花明(りゅうあんかめい)の色合いに、ほぼ2カ月をかけて列島は染められていく。