政府による異例の賃上げ要請や円安・株高のアベノミクス効果で注目される春闘で、自動車や電機大手が集中回答した。一時金の満額は続いたが力不足だ。デフレ脱却にはベアの実現が欠かせない。
十五年間も賃金(名目)が下がり続けてきた中で、その流れを変えるきっかけになるかもしれない回答ではある。
しかし、景気を本格回復させるには、月給を底上げし消費に直結するベアがいる。働き手の三割強にまで拡大した非正規の待遇改善も不可欠だ。それには、正社員中心で目先ばかりにとらわれる春闘そのものを大胆に変える必要がある。
今春闘で連合は「給与総額の1%」の賃上げを求めた。これに対し、経団連は、年齢に応じて上がる定期昇給(定昇)の凍結・延期の可能性にまで言及。春闘を引っ張る自動車や電機は早々とベースアップを見送り、定昇の死守と年間一時金に絞って交渉に臨んだ。
幸いに、円安・株高で市況が好転し、安倍晋三首相が経済団体に賃上げ要請したことも効いて、トヨタやホンダなどで一時金の満額回答が続き、不振の電機でも定昇は維持された。だが、目先の賃金水準に拘泥するばかりで、どう業績を上げ賃金の上昇に結び付けていくのか、そのための雇用や賃金制度のあり方をどうするかなどの議論は深まっただろうか。
今回でも、ベアの「環境」は十分に整っていたはずだ。足元の企業収益は、円安の追い風もあってリーマン・ショック前の水準に回復している。二〇一二年九月末の法人預金残高は約百八十兆円(日銀統計)に達し、企業は余剰資金を十分に蓄えていることをうかがわせる。それに対し、日本全体の賃金コストは約二百五十兆円といわれ、連合の求めた「1%増」はおよそ二・五兆円だからだ。
政府は賃金を増やした企業の法人税を減額する促進策も導入し、収益が十分な企業の賃上げを促した。セブン&アイ・ホールディングス傘下企業やニトリなどは現実にベアに応じた。
これは、二十年もデフレが続いたのは賃金の下落が大きな要因であること、アベノミクスで物価だけ上昇したのではデフレ脱却は逆に遠のくことが共通認識となってきたためだ。社員の士気を高めて生産性を上げることは、国際競争を生き抜くうえでの源泉である。
どうすれば賃上げが実現し、ひいては成長を持続できるか、マンネリ化春闘から脱する時である。
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