被災地の医療を支える人材育成の一歩にと、東北大病院が全国の医大生に参加を呼び掛け、沿岸部で短期の医療体験実習に取り組んでいる。再び歩き始めた地域に寄り添う若い情熱、東北に集まれ。
「医師を目指す若者にこそ、被災地を見てほしい」。東北大卒後研修センター助教の田畑雅央(まさお)医師は震災の年の夏から実習を始めた。
医師が都市部に偏在するのは宮城県も同じ。津波に襲われた石巻や気仙沼などの沿岸部はもともと全国平均より少なく、震災が追い打ちをかけた。建物が壊れ、医師が離れて閉鎖した所があるが、献身的な医師らによって復旧した所もある。そうした現場を学生に知ってほしい、と田畑医師は思う。
実習は春夏の休暇に合わせて大学側が往復交通費を負担し、毎回全国から十人前後を受け入れる。昨夏は四回で計三十二人が参加した。震災時に医療拠点となった石巻赤十字病院や、雄勝診療所などで三日間の実習をしている。
多くの参加者は東北以外の出身者だが、実習後アンケートでは地域医療への関心が高まり、期限付きなどの条件が合えば東北で働いてもいいと答えた。ボランティア経験者が半数いたが、被災者と触れ合い、誠実な医師の姿を見て、心が動いたのだ。東北地方の病院で働き始めた人もいる。東北大の実習は着実に芽吹いている。
被災地には大津波を生き延びた人がいる。不安な生活が続き、若い人にもアルコール依存やメンタル疾患が増えている。訪問診療のニーズも高い。医師は震災前よりも必要なのだ。
被災地の医師を今以上にすり減らすことのないよう、国は手だてを講じてもらいたい。新人医師の臨床研修医制度で、被災地の病院の募集定員を増やしてはどうか。厚生労働省令は研修医を受け入れる各地の病院の募集定員を、過去三年の実績を超えないものと定める。だが、原発を抱える福島や、岩手も、震災後に研修医が思うように集まらない病院が少なくない。減った数を基準にすれば、研修医は減るばかりだ。省令の運用を柔軟にすれば、若手医師を増やすきっかけにもなろう。
また、研修先は自由に選べるが、被災地の病院を選んだ研修医に対し、給与などでインセンティブを与えるのも一つの方法だ。
地域の自立に医療は欠かせない。医師だけでない。看護師、薬剤師…。震災後の東北にこれからの地域医療のモデルを築きたい。
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