HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 73870 Content-Type: text/html ETag: "1425322-29f9-40da7440" Cache-Control: max-age=1 Expires: Mon, 11 Mar 2013 02:21:02 GMT Date: Mon, 11 Mar 2013 02:21:01 GMT Connection: close
記者を乗せたバスが東京電力福島第一原発の構内へ入る。
周辺のがれきは片付き、新たな設備や機器が並ぶ。一見、ふつうの工事現場だ。
ところが、海沿いの原子炉建屋に近づくと状況は一変する。
水素爆発の衝撃で折れ曲がった巨大な鉄骨、ひっくり返った車――。1〜3号機の周辺で測った放射線量は、毎時1ミリシーベルトを超えた。まだ人が入っての作業はできない。
炉内は冷却を保っている。だが、建屋には毎日400トンの地下水が流入し、その分、汚染水が増え続ける。貯水タンクの増設でしのいでいるが、2年後には限界がくる。「収束」とはほど遠い現実がそこにある。
防護服と全面マスクに身を包んだ人たちが黙々と働く。多くは、東電以外の協力会社や下請け企業の作業員だ。
事故直後、命がけで対応にあたった人たちは「フクシマ50(フィフティー)」と世界から称賛された。
いま、線量計をつけて働く作業員は1日約3500人。6割以上が地元・福島県の人たちだという。「フクシマ3500」の努力があって、私たちは日常の生活を送っている。
■広がる孤立感
原発周辺の町は先が見えず、苦しんでいる。
浪江町復興推進課の玉川啓(あきら)さん(41)は、町の人と話す時、安易に「復興」という言葉を使わないようにしている。会話が進まなくなるからだ。
「復興」には、災害そのものは終わったという語感がある。「しかし、避難している人たちにとって事故はまだ現在進行形なんです」。住民は今、約600の自治体に分散する。
被災者には孤立感が広がる。
福島市内の仮設住宅に移った双葉町の60代の男性。東京に住む娘に近い埼玉県に戸建てを買い、終(つい)の住み家にしたいと思うが、東電が提示する賠償金ではまったく足りない。
福島県内とされる「仮の町」にも行くつもりはない。「放射能を気にして孫も来ないようなところでは意味がない」
新しい町長にも、議会にも期待はしていない。「誰を選んでも何を訴えても、そこから先に届かないもの」
原発が立地する他の自治体との距離も開くばかりだ。
自民党本部で2月15日、原発のある道県の議会議長を招いた調査会が開かれた。相次ぐ「原発の早期再稼働を」の声に、福島県の斎藤健治議長は「これ以上、一緒に議論できない」と途中で席を立った。
大震災の前までは、福島第一に原子炉の増設を求めるなどバリバリの原発推進派だった。
「『原発は必要』という人ほど事故後の福島を見に来ない。会合の場でも言ったよ、自分で3号機の前に立ってみろって。そしたら再稼働なんて簡単に言えなくなる」
■世界に向けての発信
事故直後は、「恐怖」という形で国民が思いを共有した。2年経ち、私たちは日常が戻ってきたように思っている。
だが、実際には、まだ何も解決していない。私たちが「忘れられる」のは、今なお続く危機と痛みと不安を「フクシマ」に閉じ込めてしまったからにすぎない。
福島との回路をもう一度取り戻そう。
浪江町では、グーグルが協力し、「ストリートビュー」というサービスで町並みの画像を記録していく企画を始めた。
町民からの「様子が知りたい」の声に応えるためだが、原発事故に見舞われた町のありのままの姿を、世界に向けて発信する狙いもあるという。
原発付近一帯を保存し、「観光地化」計画を打ち上げることで福島を語り継ぐ場をつくろうという動きも出ている。
いずれも、現実を「見える化」して、シェア(共有)の輪を広げようという試みだ。
「電力会社が悪い、国が責任を果たせって言えるのは僕らが最後かもしれません」と、浪江町の玉川さんは言う。「何が起きたのか、今ちゃんと共有して賠償制度や避難計画を見直さないと、今度どこかで事故が起きたら『福島のことを知ってて(原発を)受け入れたんでしょ。自己責任です』と言われておしまいになりかねない」
■私たち皆が当事者
その玉川さんが昨年4月、原発を訪れた際、ソーシャルメディア「フェイスブック」に書き込んだ投稿が、「シェア」という機能によって、人から人へと広がり続けている。すでに1万5千件を超えた。
そこには、こんな言葉がつづられている。
「今回の事故は最悪ではなかった/幸いなことに最悪を免れることができたという、恐ろしい事実をもっと皆で共有すべきと感じます」「福島を支援するということが誤解/福島の地で今を支えている/それによって日本が支えられている/皆がまさに当事者なのです」