公立学校での土曜授業を復活させようと、文部科学省が意気込んでいる。週休二日がすっかり定着しているのに大丈夫か。子どものどんな力を伸ばすのか。慌てずに社会全体で長短を確かめたい。
物の豊かさより心の豊かさを−。学校週五日制の話が出てきたのは、そんな声が高まった一九八〇年代だ。外国との貿易摩擦がひどくて「日本人は働き過ぎ」と批判され、労働時間を短くする動きが先行していた。
社会がこぞってゆとりを求める流れに乗り、公立学校では九〇年代に月一回、そして二回と徐々に土曜休みを取り入れた。完全に週休二日になったのは十一年前だ。
文科省は学校での授業の中身や時間を削った。もっと地域や家庭で自発的に遊んだり、学んだりする体験が子どもの育ちにとっては大事だ。そんな考え方だった。
それがうまくいかなかった。塾や習い事にせっせと通う子、部活動に精を出す子、家で漫画やゲームに興じる子−。休みの過ごし方に大きな偏りが生じた。
金持ちの家庭か。教育熱心な親か。地域に受け皿はあるか。そんな違いが子どもの意欲や成績、生活習慣の差にもつながった。公立では学力が身につきそうにないからと、土曜日も授業をする私立が人気を集める土壌にもなった。
すると、文科省は今度は学校での勉強時間をうんと増やした。週休二日のままだから学校は夏休みを縮めたり、文化祭などの行事を減らしたりして時間割を目いっぱい組んだ。小学校でさえ一日六コマの授業は当たり前になった。
先生も子どももてんてこ舞いだ。平日の負担を軽くしようと、土曜授業の復活案が持ち上がったのも無理はない。例えば、一昨年の横浜市教育委員会の調査では保護者の七割が賛成した。
週末は仕事があって子どもの面倒を見られない。ネットやテレビの時間を勉強に充ててほしい。そんな思いの親も多くいる。
でも、いじめや不登校で悩んでいる子は気が重くならないか。先生だって労働者。きちんと休めるのか心配している。
東京や埼玉、栃木、福岡ではすでに特例として土曜日に授業をやる公立が目立ってきた。近所の人や親に公開しているが、子どものどんな力が伸びるのだろう。
家族や友だちと過ごしたり、趣味やけいこ事を楽しんだりしたい子もいるはずだ。心の豊かさとはという大事な問いも置き去りにされている。ゆっくり考えたい。
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