俳句の世界では、亀も鳴く。「亀鳴く」は春の季語だ。亀が本当に鳴くのかは知らぬが、何ともユーモラスだ。<もう鳴かぬ亀の化石を飾りけり>日原傳▼亀の声はともかく、この季節、閉口するのが、猫の求愛の声だ。「猫の恋」も春の季語。生命の連鎖への渇望を象徴する春の風物詩も、眠れぬ夜には、まこと悩ましい。<恋猫に付き合っていて月痩(や)せる>篠田悦子▼恋する心には翼が生えるという。シェークスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』でロミオは言う。「恋の翼をかりてこの壁を飛び越えてきました…恋は、やってやれるものならすべてをやろうとするもの」▼この名せりふを実証したような最新の研究がある。鳥の祖先はなぜ翼を持つに至ったのか。「飛ぶため」と思っていたが、化石を研究する古生物学者の間ではまったく違う常識ができつつある▼北海道大学の小林快次(よしつぐ)准教授らは、巨大なダチョウのような恐竜オルニトミムスの化石を調べた。時速六十キロで走るこの恐竜は飛べもしないのに、翼があった。しかもその翼は繁殖できる年ごろにならないと生えない。小林さんは「オルニトミムスは翼を広げ相手を誘い、卵を翼で温めていたとみられます。翼は繁殖行動のために生まれたのです」と話す▼恐竜の恋が翼を生んだとは、何とすてきな進化の物語か。<少年の見遣(や)るは少女鳥雲に>草田男