どんな人に尋ねるかで、これほど評価が割れる人もいないだろう。どの国で聞くか、先進国か発展途上国か、金持ちか貧しい人か。独裁者と呼ぶ人もいれば、救世主と崇拝する人もいる。そんな政治家、南米ベネズエラのチャベス大統領が五十八歳で逝った▼貧しい家に生まれた。十歳にならぬうちから畑仕事を手伝い、祖母が作る菓子を路上で売って稼いだ。野球少年で、夢は大リーガー。「植物に水をやる時に歌ってやれば、きれいな花が咲く」と祖母に言われれば、一生懸命に歌った▼子どものころ、曽祖父が「人殺し」だと聞いて、おののいた。後に調べたら、政府に反逆したゲリラと分かった。支配層にとっては、「殺人者」。逆の立場から見ると、「英雄」。この二面性こそチャベス氏の姿だ▼いや、ベネズエラ自体が、二つの顔を持つ国だった。世界屈指の産油国ながら、その富は特権層や海外資本に独占されて、人々は貧困にあえいでいた▼だから、石油利権に切り込んで、富を貧困対策に使った指導者に民衆は熱狂した。当然抵抗は強く、それを封じ権力を維持するためになりふり構わぬ手段も使って、国を二分した▼きょうは、二つの顔を持つ男チャベス氏の国葬の日だ。しかし、「貧しい人があふれる豊かな世界」という、この世の二つの顔は葬り去られるどころか、ますます鮮烈な明暗を見せている。