国会は政府が提示した日銀総裁候補から所信を聴取した。黒田東彦(はるひこ)アジア開発銀行(ADB)総裁は物価目標2%の達成は二年がめどと意欲を示した。カギを握るのは強力なリーダーシップである。
いくら正副総裁に強力な金融緩和論者をそろえても、それだけでは大胆な金融緩和は実現できない。政策を決めるのは金融政策決定会合の九人の多数決だからだ。白川方明(まさあき)総裁の下で金融政策を決めてきた委員が六人残り、そこへ新たな正副総裁三人が乗り込む形である。新総裁は、確固たる理論と強い意志で委員をリードできなければ、金融政策の転換は「絵に描いた餅」に終わりかねない。
黒田氏は十年以上前からインフレ目標の必要性を訴え、日銀の金融政策を批判してきた強力な金融緩和論者だ。大蔵省の国際担当である財務官を三年半、ADB総裁を八年務めてきた経歴からわかるように、国際舞台で日本の金融政策について説明し、理解を得ることができる資質もあろう。
黒田氏は所信聴取の場で「デフレ脱却に向けて、やれることは何でもやる姿勢を明確に打ち出す」と強調した。具体的な金融緩和策についても「(日銀がお金を供給するために購入する金融資産の)規模と対象は十分でない」と踏み込み、現在は償還まで三年以内としている国債を、より長期なものを大量に買う考えを示した。
この日の東京の金融市場で、一段と株高・円安、長期金利の低下が進んだのは“黒田総裁”への市場の期待の裏付けである。だが、それでも一抹の不安は残る。
「馬を水辺に連れて行けても、水を飲ませることはできない」のたとえもある。これまで金融緩和に及び腰だった日銀や政策決定会合の委員が、はたして本当に転換できるかである。ADBという大きな組織を動かしてきた経験から黒田氏の指導力に期待したい。
その意味で注目なのは、副総裁候補の中曽宏日銀理事の所信聴取である。生え抜きで日銀の現職幹部の中曽氏がこれまでの日銀政策をどう総括し、そのうえでどう転換すべきかを語るのは、金融政策の体制変革に大きな意味を持つ。ぜひ率直に述べてほしい。
黒田氏は「日本がデフレから脱却し、持続的な経済成長に回復することはアジアや世界からも期待されている」と強調した。イタリア政局で欧州が、「財政の崖」で米国経済が揺らぐ中、一刻も早い脱デフレは日本の責務である。
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