国際紛争当事国などへの武器輸出を禁じた武器輸出三原則に新たな例外がまた生まれた。日本が戦後歩んできた平和国家の体面を傷つけないか。三原則の形骸化が進まぬよう厳格な歯止めが必要だ。
共産圏諸国、国連決議による武器禁輸国、国際紛争当事国またはその恐れがある国には武器を輸出しない。これが武器輸出三原則だ。佐藤栄作首相が一九六七年に表明した。七六年には三木武夫首相が三原則対象国以外への武器輸出も「慎む」と表明し、事実上の全面禁輸となった。
今回、官房長官談話で新たに三原則の例外としたのは、航空自衛隊が導入する次期戦闘機F35向けに日本企業が製造する部品だ。
米国を中心に国際共同開発が進められており、日本企業の参入で調達価格の低減、部品の安定供給、国内防衛産業の生産基盤維持にもつながるという。
問題はF35の導入予定国に、イランやパレスチナなど周辺国・地域との間で軍事的な緊張が続くイスラエルが含まれることだ。
日本製の部品を使ったF35をイスラエルが実戦使用すれば、国際紛争の助長回避を目的とした三原則から逸脱することになる。
F35は米国政府の一元的な管理下、国連憲章の目的と原則に従う国にだけ供与されるという。
日本企業が製造に加わっても平和国家の基本理念は維持できるというのが談話の趣旨だが、国柄を成す理念の成否が、他国の管理次第というのは何とも心もとない。
そもそも三原則はこれまでも厳格に守られてきたとは言い難い。
八三年に米国への武器技術供与に道を開いた後、二〇〇四年には米国とのミサイル防衛の共同開発・生産など、いくつかの例外を設けてきた経緯がある。
一一年には武器の国際共同開発・生産と人道目的での装備品供与を事実上、解禁した。
とはいえ武器輸出三原則は、戦争放棄の憲法九条、核兵器を「持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則とともに、日本が先の大戦の反省から戦後築き上げてきた平和国家という「国のかたち」の根幹を成す。
それらが揺らげば、軍備管理・軍縮分野で影響力を保ってきた日本の外交力を削(そ)ぎ、国際的地位を危うくする。国益は毀損(きそん)される。
武器輸出三原則は骨抜きにされてきたとはいえ、引き続き堅持すべき基本理念だ。これ以上形骸化しないよう、厳格な歯止めをそろそろかけるべきではないか。
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