HTTP/1.1 200 OK Date: Sun, 03 Mar 2013 03:21:10 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞: バラの花を小説のページに挟み込む。押し花となったバラは何…:社説・コラム(TOKYO Web)
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 バラの花を小説のページに挟み込む。押し花となったバラは何年たっても、美しい記憶のように香りを放つ。映画『八月の鯨』を見ることは、心のひだにバラを挟み込むようなこと。名調子の評論が懐かしい故淀川長治さんは、そんな風に評した▼この名画は、岩波ホールの総支配人・高野悦子さんが四半世紀前、ホール創立二十周年の記念作品として日本に紹介した。米国の海辺の別荘で夏を過ごす老姉妹の姿を、静かに、すみずみまで美しく描いた作品だ▼「老人ばかりの映画はどうか」としぶる関係者を説き伏せ上映にこぎ着けたのは、高野さんがこの映画を「母からの贈り物」と考えたからという。長い闘病生活を送りながらも一日一日を懸命に生きる母の姿が、映画の老姉妹の姿と重なった、と自著『母』に書いている▼高野さんは生涯独身を通したが、主婦のような気持ちでホールをきれいにし、育ての親のような気持ちで、一本一本の映画に接した。そんな宝石のような子の一人『八月の鯨』が岩波ホールで再上映され、その後全国を回る▼高野さんが八十三歳で人生の幕を閉じたのは、二月九日。愛し育てたホールが創立四十五周年を迎えたその日だった▼ホール支配人で姪(めい)の岩波律子さん(62)は話している。「たまたまではありません。高野の意思です。病床の高野はあの日まで頑張って、逝ったのです」

 

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