内閣府の二月の月例経済報告で、景気にうっすらと明るさが見えた。厳しい現実はあるが、景気浮揚に向け消費を盛り上げるため、企業は従業員の賃金アップや雇用の維持・拡大に努めてほしい。
総務省の労働力調査によると、製造業で働く人は昨年十二月に九百九十八万人となり、一九六一年六月以来、五十一年ぶりに一千万人を下回った。雇用実態の厳しさをあらためて裏付けた。
理由は、業績不振に伴う電機大手など企業のリストラが続いていることや、円高を背景に、生産拠点の海外移転が進んだことなどが挙げられるだろう。シャープは大幅な人員削減を進め、ソニーは一部の国内工場を閉鎖する。半導体大手のルネサスエレクトロニクスも、大規模な工場閉鎖や売却に踏み切る。深刻な雇用状況の改善は急務だ。
一方で、景気にはほんのり変化も表れ始めた。二月の月例経済報告では、景気の基調判断を「一部に弱さが残るものの、下げ止まっている」とし、二カ月連続して引き上げた。
生産の減少に歯止めがかかり、特に、自動車産業は「持ち直しの兆しがみられる」とした。最近の円安・株高で、企業の業況判断も改善している。
実際、トヨタ自動車は二月、二〇一三年三月期単独決算の予想で、もうけを示す営業損益を、従来の二百億円の赤字から千五百億円の黒字に修正した。このうち千四百億円は円安効果による。円安が進めば、国内で生産する車の輸出の採算が改善する。シャープやパナソニックも、一二年十〜十二月期は営業黒字を確保した。円安基調は、日本企業の業績改善につながる可能性は高い。
ただ、依然として企業の姿勢は慎重だ。今春闘でも経団連は、賃金水準を上げるベースアップについて「余地なし」とし、定期昇給凍結の可能性も示している。
政府・日銀は、物価上昇率を2%にする目標を導入した。この先、雇用が拡大されず、個人所得も増えないまま、物価だけが上がれば、消費は冷え込むばかりだ。政府はまた、十兆円超の緊急経済対策を打ち出した。問題は、財政支出による景気押し上げが続いている間に、経済が本格回復に向かうかどうかだ。
鍵を握る企業は、円安や生産の回復で生まれる利益をため込むのではなく、将来の成長に向け、雇用創出につながる設備投資や賃金の拡大に活用を考えるときだ。
この記事を印刷する