安倍政権が次期日銀総裁に黒田東彦(はるひこ)アジア開発銀行(ADB)総裁を充てる人事案を決めた。白川方明(まさあき)総裁と副総裁二人は来月十九日に辞任する。空白を生まぬよう国会同意を円滑に行うべきだ。
デフレ脱却に向けて、カギを握る重要な人事である。安倍晋三首相が掲げる三本の矢の一本目、「大胆な金融緩和」が実現するかどうかが、この正副総裁人事にかかっているといっていい。
日銀は先月二十二日の政策決定会合で、安倍首相の主張を受け入れる形で「2%の物価安定目標」を決めた。しかし、肝心の緩和策は、現状とほとんど変わらない「ゼロ回答」だった。大胆な金融緩和を「やる」と見せかけ、実は「やらない」面従腹背だったのだ。
考えてみれば当然だろう。白川総裁らの“日銀流理論”は「金融政策でデフレは克服できない」というのである。それゆえ大胆な金融緩和には及び腰で、結果的に十五年もデフレが続いてきた。
欧米の中央銀行に比べて緩和(お金の供給)が不十分だったから超円高にもなった。安倍政権が日銀流理論に凝り固まった正副総裁を金融緩和論者に代えるのは必然である。それでも政策決定会合は多数決のため、必要なら日銀法の改正も視野に入れるべきである。
黒田氏は、財務省で国際金融政策を担う財務官を三年半務め、二〇〇五年からアジア開銀総裁に就いている。デフレの原因は金融政策の失敗にあると日銀を批判し、世界標準といえるインフレ目標の導入を早くから主張してきた。
副総裁候補の一人、岩田規久男学習院大教授も、金融緩和論の急先鋒(きゅうせんぽう)で2%の物価安定目標の実現に自信を示している。もう一人の副総裁候補で日銀理事の中曽宏氏は、生え抜きとして日銀組織の精神的支柱になり得るであろう。
五年前の総裁交代では、野党民主党が官僚OB候補に反対し、総裁の空席期間が約二十日生じた。今回の人事案の報道を受けた週明け二十五日は株高と円安が一段と進み、市場に信認された格好である。「金融政策のレジームチェンジ(体制変革)」は安倍自民党が総選挙時から訴えてきたわけで、有権者と市場の支持を得たものをいたずらに政争の具としてはならないはずだ。
国会は、候補の所信を確かめ、円滑に同意人事を進めるべきである。問われるのは、総裁の出自や経歴ではなく、デフレから脱却する政策実行力である。
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