安倍晋三首相の再登板後、初めて行われた日米首脳会談。首相は「日米同盟の信頼が完全に復活した」と宣言したが、安全保障分野で実質的な進展があったとは言えない。課題は残されたままだ。
首脳会談の中心議題は環太平洋連携協定(TPP)交渉への日本の参加問題だった。そのことは今回の会談を受けた唯一の共同声明がこの問題に関するものだったことからもうかがえる。
日本側はTPP交渉参加に反対する国内勢力を説得するために、「聖域なき関税撤廃」が前提ではないとの確約を取ろうとし、米側も日本の交渉参加を後押しするため、その旨を盛り込んだ共同声明の発表に応じた。
米側には経済規模の大きい日本の参加は対日輸出が増え、米国内の雇用増加につなげる好機だ。初顔合わせは双方の国内事情が前面に出た内向きの会談だった。
首相は大統領に「日米同盟の信頼、強い絆は完全に復活したと自信を持って宣言したい」と胸を張った。首相就任前、民主党政権を「外交敗北」と攻撃していたことの延長線上での発言だろう。
しかし、民主党政権時代に日米関係が悪化し、自民党政権に代わって改善したという幻想を振りまくのは建設的ではない。
民主党時代も日米安全保障条約体制は機能していたし、東日本大震災の際、被災者救出・救援に駆けつけた米軍の「トモダチ作戦」にこそ、日米の絆の強さを感じ取った国民も多いことだろう。
首相が同盟の信頼を強めるというのなら、むしろ安保体制の脆弱(ぜいじゃく)性克服に力を入れるべきである。それは在日米軍基地の74%が集中する沖縄県の基地負担軽減だ。
会談では普天間飛行場の「移設」と嘉手納飛行場以南の土地返還を早期に進めることで一致したが、普天間返還は名護市辺野古への「県内移設」に拘泥する限り進展せず、県民の負担軽減にはつながらない。
国外・県外移設など抜本的な解決策を模索し始める時期ではないか。住民の反発が基地を囲む同盟関係が強固とは言えまい。
中国の台頭は日米のみならず、アジア・太平洋の国々にとって関心事項だ。首相が尖閣諸島をめぐる問題で「冷静に対処する考え」を伝えたことは評価したい。毅然(きぜん)とした対応は必要だが、緊張をいたずらに高めないことも、日米同盟における日本の重い役割だ。
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