闇が深いが故に、情報機関は映画の格好の題材になるのだろう。今年の米アカデミー賞の作品賞に米国の中央情報局(CIA)の活動を描いた二つの作品が候補になった▼国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン容疑者の殺害計画を描いた「ゼロ・ダーク・サーティ」は、拷問の場面も再現し政治を巻き込む論争になった。在イラン米国大使館の占拠事件をめぐり、十八年間封印されていた最高機密を映画化したのは「アルゴ」だ▼CIAの人質奪還のプロがニセ映画の製作を企画。カナダ大使館にかくまわれた六人の米大使館員を撮影クルーに仕立て、無事に出国させた史実に基づくこの作品はきのうの授賞式で、作品賞を獲得した▼同じ日、韓国では朴槿恵さんが、女性初の大統領に就任した。父親の朴正熙元大統領は腹心だった韓国中央情報部(KCIA)の部長に暗殺された。CIA関与説もくすぶるが真相は不明だ▼母親もテロで亡くし、二十二歳でファーストレディーの代役を務めた槿恵さんは、血染めの父のシャツを手で洗いながら、「一生分の涙」を流したという▼財閥系ばかりが利益を上げ、格差が広がる社会に国民の不満は大きい。就任式では、父が実現した高度経済成長を重ねて、「第二の漢江(ハンガン)の奇跡を起こす」と強調した。「悲運の姫」の異名は国民のためにも捨てなければならない。