ウナギがとうとう絶滅危惧種になってしまった。稚魚のシラスは四年連続で極度の不漁。私たちは、うな丼を子孫に残せるのだろうか。ウナギはその身をもって人間に、持続可能性を問うている。
石麻呂に 吾(わ)れもの申す 夏痩(や)せに よしといふものぞ 鰻(むなぎ)とり食(め)せ
万葉集にある大伴家持の歌である。人とウナギ。千年を超える本当に長いつきあいなのだ。
環境省は今月初め、ニホンウナギを絶滅危惧種に指定した。IB類という分類は、アマミノクロウサギやライチョウと同じなのだから深刻だ。私たちは長い友達を食べ尽くそうとしているらしい。
ウナギは謎の多い魚である。生まれ故郷は東京からはるか二千キロも南のマリアナ諸島西方海域らしい。それがわかったのも一九九〇年代になってのことだった。
透明な木の葉のような幼生は波に漂い、黒潮に乗り、シラスと呼ばれる稚魚に育って、日本や台湾など東アジアの河口にたどり着く。そして川をさかのぼり、五年から十年かかって成魚になり、産卵のために海へ下って再び長い旅に出る。私たちはそのシラスを捕まえて、工夫した餌を与え、成魚にしたものを食べている。半養殖である。
完全養殖の技術は確立しつつあるものの、卵からシラスに育つのはごく少なく、商品になるにはまだ時間がかかる。
シラスの不漁が続いている。この冬の漁獲は、「三年連続の超不漁」と言われ、ウナギが高騰した去年の実績を大きく下回る。養殖ウナギ生産全国二位の愛知県では、昨年十二月漁獲量が「ゼロ」と報告された。
シラス激減の原因は、第一に乱獲、乱食、開発による河川環境の変化、そして温暖化の影響で潮の流れが変わり、幼生が沿岸にたどり着けなくなったことなどが挙げられる。すみにくくなったのだ。
愛知県は昨年秋、下りウナギの漁獲自粛やシラスの漁期短縮といった規制に乗り出した。全国三位の宮崎県は毎年十月から三カ月間、体長二五センチを超える親ウナギの漁獲を禁止した。
当面は、国内の河川で成魚の漁獲を規制し、東アジア各国が協力して資源保護体制を整えることだ。並行して完全養殖の実用化を待ちたい。
小さなシラスは今の時代が抱える環境問題の象徴的存在だ。私たちは持続可能性を問われている。
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