わが国で第一回の国勢調査が行われたのは、一九二〇年十月一日だ。当局は初の試みを成功させるべく、脅迫めいた標語まで使って宣伝した。<一人の嘘(うそ)は万人の実を殺す>。こんな物騒な川柳もあった。<調査漏れ十年間は亡者なり>▼漢字が不得手な人のために、調査票には実に懇切丁寧な振り仮名が付けてあった。<申告義務者(もうしでをすべきひと)は、誠実(しょうじき)に申告(もうしで)を為(な)し、奮(ふるっ)てこの文明的国家事業(ひらけたくにのしごと)に協力(ちからをあわ)せらるべし>▼第一次世界大戦での列強各国の近代的な組織力を目の当たりにして、国勢調査こそは大国の仲間入りの礎とばかり、国の威信をかけての一大事業だった▼愛知県東浦町の幹部は、大国ならぬ市への仲間入りを焦った揚げ句に、町の威信を落としてしまったようだ。市になるために必要な五万人を超すため、二〇一〇年の国勢調査で人口を水増しした疑いがあるとして、前副町長が逮捕された▼今や個人情報への意識の高まりで回答拒否が相次ぎ、調査員は大変な苦労をすると聞いた。その調査を役場の机の上でごまかしていたのだとしたなら、<役人の嘘が住民の実を殺す>ような話だ▼十九世紀の英国の首相ディズレーリは、「嘘には三種類ある。嘘、ひどい嘘、そして統計」と言い、その十数代前の首相カニングは「何でも統計で証明できる。真実以外は」と言った。「統計」には「うそ」とルビを振るべきなのか。