フィンランドのなぞなぞにこんな問題があるそうだ。「いつでも世界をめぐっているのに、自分の場所を離れないものは?」。答えは「心」。なんとも哲学的な問い掛けである▼空気が澄んでいる冬は、星空を見上げて哲学者の気分に浸れる季節である。「私の心を感嘆と畏敬で満たす二つのものがある。それは、星の煌(きら)めく天空と、私の内なる道徳律とである」。夜空を眺めていると、天体物理学の権威でもあったドイツの哲学者カントの気持ちが分かるような気がしてくるから不思議だ▼ただ、今回の宇宙からの訪問者を目撃した人々はロマンチックな気分に浸る余裕はなかったはずだ。ロシアのウラル地方で爆発・落下した隕石(いんせき)による負傷者は千二百人を超えた。実に百年ぶりの巨大隕石の被害である▼推定される大気圏突入前の直径は約十七メートル、重さは一万トン。衝撃波として放出されたエネルギーは、広島型原爆の三十倍を超えるそうだ▼きのうの未明、地球近くを通過した小惑星は十分に警戒されていたが、その三分の一ほどの大きさである隕石の接近には米航空宇宙局(NASA)も気付かなかった。観測には限界があるという▼火星と木星の間の小惑星帯から、どれぐらいの長旅をしてきたのだろうか。太古には、恐竜が滅びる原因になったという説もある隕石の衝突だ。不意打ちに驚いてばかりはいられない。