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君主をはじめとし、亡くなるまで務める、いや、務めると信じられている地位がある。その一つだったローマ法王のベネディクト16世が、世界を驚かせて今月末に退位する。在位約8年の85歳は、心身ともにお疲れのご様子だ▼10億人を超えるカトリック信徒の頂(いただき)は265代を数える。存命中に退くのは、教会分裂の中で辞職を強いられたグレゴリウス12世以来、598年ぶり。自発的な退位となると、13世紀末のケレスティヌス5世以来719年ぶりという。小欄で世界史をひもとくポストはあまりない▼伝統こそが権威の組織は、おのずと保守的になる。今の法王も教義に厳しく、同性愛や中絶、神父の妻帯を認めなかった。他方、法王庁内外の醜聞に悩まされもした。異例の引き際に、古色に染まらぬ人臭さを見る▼注目は後任選びの集いコンクラーベだ。80歳未満の枢機卿(すうききょう)がバチカンにこもり、投票を重ねる。その紙を燃やす煙は、決まらねば黒、決まれば白で鐘も鳴る。久々の「前職」を含め、無数の目が礼拝堂の煙突を見守ることになる▼終身制や聖職には縁遠いわれら勤め人も、異動の季節を迎えた。上役らのコンクラーベを経て、辞令一枚で西へ東へ、得意と失意が行き来する。世には小さく、されど人生には大きい、春の泣き笑いである▼いずれにせよ、億単位ではなく、せいぜい身内が気にかける人事は罪がない。上り詰めて果てる道もあるけれど、先達が教える通り、冷や飯をおいしく食べて次に備えるのもいい。