北朝鮮が国際社会の制止を振り切り三回目の核実験をした。国民の多くが満足な食事もとれないのに、核とミサイル開発を続けるのはあまりに無謀だ。
北朝鮮は昨年十二月、人工衛星だと主張して事実上の長距離弾道ミサイルを発射した。国連安全保障理事会は制裁決議を採択したが、制裁は不当だと言い張り核実験を予告していた。
朝鮮中央通信は実験を「完璧に実行した」と報じ、成功だったと強調した。
◆製造と配備止めねば
周辺国の情報によると、核実験は北朝鮮北東部の豊渓里にある地下トンネルで行われた。特異な地震波により、韓国国防省は爆発規模を六〜七キロトンと推定した。広島と長崎に投下された原爆より爆発力は劣るが、過去二回の実験より威力を増した。
これまでのプルトニウムではなく今回初めて高濃縮ウランを使った、爆弾をミサイルに搭載できる小型化を試したなどの観測がある。核能力をどこまで高めたか、大気中に拡散した微量な放射性物質の分析が必要だ。
今後、弾頭の小型化に成功し、運搬ロケットの射程、精度を高めることができれば、核兵器保有が現実になる。
では、どこまで近づいたか。今月五日、ソウルで開かれたシンポジウムで、ヘッカー米スタンフォード大教授は北朝鮮の核を「まだ初歩的な段階」との考えを示しながら、「抑制措置を取らないと最悪の状況になる」と述べた。二〇一〇年に訪朝してウラン濃縮施設を直接見た専門家だけに、重い警告と受け止めたい。
十二月に発射したミサイルの技術を使えば射程は一万キロ以上になると、防衛省は分析する。米国の中西部まで届き、大陸間弾道ミサイル(ICBM)に近づく。日本を射程に入れる中距離ミサイル「ノドン」は既に数百発が配備されているという。
核兵器実用化まで「三〜五年」とか「五年以内」とさまざまな推測がある。国際社会は連携し、総力を挙げて製造と実戦配備を阻止しなくてはならない。
北朝鮮は五大国だけが核兵器を保有する核拡散防止条約(NPT)体制に挑戦している。自らを「核保有国」だと認めさせれば、軍事施設への査察を拒否でき、核削減を迫られたら巨額の経済支援を求めるという「皮算用」をはじいているとみられる。
同時に、朝鮮戦争(一九五〇〜五三年)から六十年続く休戦状態を終わらせ、米国との間で平和条約を結んで現体制を維持するのが目的だろう。
◆改革・開放は遠のく
北朝鮮は前日に米国と中国には実験を通告したというが、中止を求める警告、説得を一切聞かなかった。しかも、二期目に入ったオバマ米大統領の一般教書演説のわずか半日前に行われた。核問題は米国とだけ交渉するというサインだといえるが、出ばなをくじかれたオバマ政権はより強い姿勢になろう。
北朝鮮がこのまま核兵器の保有を目指すなら、完全に孤立する。強硬路線を変えなければ支援は期待できず経済再建も難しい。国民はいつまでも貧困から抜け出せず、その不満はやがて指導者に向かうだろう−。国際社会は厳しい現実を突きつけ、核開発の断念を迫っていきたい。
中国の習近平政権には、エネルギーや食料など援助の大幅削減も視野に入れ、北朝鮮の危険な行為が高くつくことを理解させるよう望む。
北朝鮮の金正恩第一書記は判断を誤った。大衆の前で演説して「開放的な指導者」を演出し、農業や流通部門の改革にも乗り出した。しかし、就任十カ月の“実績”はミサイル発射と核実験だった。改革、開放への期待は完全に遠のいた。
まだ三十歳といわれる若さゆえに、軍事力を増強し周辺国を威嚇する「瀬戸際戦略」を続けないと、軍部と既得権層の支持を得られないのだろう。正恩氏の危険な賭けはこれからも続くと警戒した方がよい。
安保理は緊急会合を開くが、米国と日韓両国は制裁強化で臨み、中国も再び制裁に同調する可能性がある。米韓は先週、日本海で合同軍事演習を実施し、強い圧力をかけた。朝鮮半島の緊張がさらに高まると懸念される。
◆危機の長期化に備えよ
安倍晋三首相は日本人拉致問題への取り組みを約束しているが、日朝協議の進展は当面難しくなった。今月下旬に就任する韓国の朴槿恵・次期大統領は南北関係改善を目指すが、今後は防衛力強化に重点を置くことになろう。
今回の危機は長期化する。経済制裁、外交、さらに軍事的圧力も含め、周辺国が足並みを乱さずに対応することが何よりも重要だ。
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