猫にちなむことわざは数多いが、ありそうでないのが<猫に首輪>。ネットの海に身を潜めた「真犯人」が現実の世界に姿をさらしたのは一度だけ。捜査当局との化かし合いに終止符を打ったのは、野良猫の首輪だった▼ウイルス感染したパソコンから犯行予告が送信された遠隔操作事件で、警視庁と神奈川、三重県警などの合同捜査本部はきのう、威力業務妨害の疑いでIT関連会社社員の男を逮捕した▼IT知識を悪用し、第三者のパソコンから殺人予告メールなどを送らせて無関係の人を逮捕させる前代未聞の犯罪だった。「『警察・検察を嵌(は)めてやりたかった、醜態を晒(さら)させたかった』という動機が100%です」と犯行声明に書かれていた。その目的はすでに達成したといえるかもしれない▼自白を強制するでたらめな捜査手法が白日の下にさらされ、警視庁など四都府県警は誤認逮捕を認め、謝罪せざるを得なかった。警察当局への信頼は地に落ちた▼「全く身に覚えがありません」と男は容疑を全面否認しており、捜査は慎重に進めてもらいたい。自らの欲求を充足させるために他人を踏み台にしたことが事実なら、卑劣な罪の報いは受けなければならない▼同時に、刑事裁判を通じて検証されなければならないことがある。無実の市民をいともたやすく冤罪(えんざい)に陥れる、人権意識の乏しい捜査機関の体質である。