中国軍艦艇が自衛艦などに射撃管制用レーダーを照射した。武力衝突に発展しかねない危険な挑発行為だ。日本政府は毅然(きぜん)と対応し、同時に緊張をこれ以上高めない冷静さを失うべきでない。
レーダー照射はミサイルや砲弾を発射するために照準を定めるものだ。中国側の意図は不明だが、日本政府は「レーダー波を照射されれば自衛行為として攻撃することは当然認められている」(二〇〇七年十月十七日、参院予算委員会での石破茂防衛相答弁)との立場に立つ。
海上自衛隊の護衛艦が中国海軍のフリゲート艦にレーダー照射されたのは一月三十日、東シナ海の公海上だという。一月十九日には別の護衛艦から発艦したヘリコプターに対しても照射とみられる行為があったとしている。
護衛艦への照射は数分間にわたり執拗(しつよう)に続いたという。日本側の反撃を誘い、偶発を装って軍事衝突に持ち込もうとするかのような危険な挑発行為だ。許されようはずがない。自制を求めたい。
こうした行為が習近平総書記ら中国共産党中央も認めたものなのか、現場指揮官の独断なのかは評価が分かれるが、そのいずれだとしても党中央の責任は免れない。
安倍晋三首相は五日、レーダー照射について「挑発に乗ってはいけない。冷静に対処することが大事だ」と小野寺五典防衛相に指示したという。当然の対応だろう。
護衛艦やヘリはレーダー照射に反撃せず、回避行動を取った。政府の公表がずれ込んだのも、レーダー波の解析に正確を期したのだろう。一連の経緯は首相自らではなく、防衛相に公表させ、それも正式な記者会見とせず、記者団の取材を受ける形とした。
中国政府に毅然とした態度を示す必要があるのはもちろんだが、あくまでも外交ルートを通じた冷静な対応に徹してほしい。
同時に、不測の事態を避けるための連絡手段を構築したり、首脳同士の対話を通じて、信頼関係を醸成する必要もあるだろう。
中国は国連安全保障理事会の理事国であり、人口十三億人を擁する大国だ。アジアと世界の平和と安全に果たすべき責任は重い。
地域の緊張を高めるような挑発行為をくり返すのは、その責任を放棄したのも同然で、国際的な信用も失うだろう。それは中国自身の国益をも損なう。そろそろそのことに気付くべきではないのか。
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