生活に困窮する人が増えている。政府がその支援策をまとめた。地域の力をうまく結集して生活保護に陥る前に自立につなげる。実現に向け社会で取り組み、貧困の“防波堤”に育ててほしい。
生活に困ったとき頼りになったのはかつては隣人だった。地域の絆が弱くなった現在は、こうした支え合いは難しい。
一方、世帯の平均所得は十九年前から減り始め、現在二割が年収二百万円未満だ。そこで生活保護に頼る前の困窮者の自立を後押しする。厚生労働省の審議会がその支援策を報告書にまとめた。
自治体などに相談窓口を設けたり出向いて困窮者を見つける。個々の事情に合わせた解決法を考え、力になる関係機関につなげる。
就労の場を提供したり、家計のやりくり、住宅の確保、健康管理、子どもの学習支援など自立力をつけるためきめ細かく支える。
支え手は自治体やハローワークなど公的機関にNPO、社会福祉法人、民間企業も加わる。お隣さん同士の助け合いの輪の代わりに、社会のいろいろな機能をつなげた輪で支えることを狙う。
こうした支援は今、求められている。自立できる人が増えれば生活保護費の削減にもつながる。
支援の特徴は、困窮者が自立できるまでこの支援の輪のだれかが寄り添う伴走型サポートだ。
ただ、その具体像が不透明である。「保護を受ける前に自立へつなげる」狙いを口実に、保護を利用させない新たな水際作戦になるとの懸念の声もある。政府は地域で共有できる具体像を示すべきだ。
目指す理想像は分からないではないが、支援のカギは輪をつなぎ動かせるかだ。だが、関係機関の役割分担と連携の模索はこれからである。人材や財源も要る。
最大の課題は地域の要となる自治体のやる気だ。報告書もいたる所でそれを指摘している。NPOや企業が熱心でもなかなか輪にならない。輪をつなぐ“接着剤”になる自治体の人材が重要になる。本腰を入れて取り組まねば、掛け声だけに終わりかねない。
政府は通常国会に関連法案を提出する。就労支援など一部は新年度予算案に盛り込まれたが、本格的な取り組みは数年先になる。
保護費の削減など生活保護制度の引き締め策だけでは困窮者を追い詰める。寄り添う支援は一体で実現に努力すべきだ。
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