政府・与党はアルジェリア人質事件をきっかけに海外からの邦人輸送を定めた自衛隊法改正の検討をしている。邦人救出や武器使用基準の緩和に踏み込むとすれば、議論の方向がずれていないか。
政府は被害者帰国のため航空自衛隊の政府専用機をアルジェリアへ派遣した。自衛隊法で規定された邦人輸送は自衛隊機のほか、自衛隊の艦艇やヘリコプターも使用できるが、いずれも「輸送」であり、「救出」ではない。
政府は関係省庁の局長級による検証委員会を立ち上げ、自民党は自衛隊法の見直しに入った。
たたき台となるのは、自民党が野党だった二〇一〇年、現防衛相の小野寺五典氏らが国会提出した同法改正案だ。
この案では陸上輸送を加え、現行法では正当防衛・緊急避難に限定される武器使用基準を「合理的に必要とされる限度」に緩めて「救出」の色彩を強めている。
当該国にとって、国の玄関である空港や港へ自衛隊を受け入れるのと、内側の領土で自衛隊が活動するのとでは重みがまるで違う。武装した自衛隊が動き回る事態を軍や警察を持つ主権国家が歓迎するはずがない。現にアルジェリア政府は米英の軍事支援の申し出を拒否した。
改正案でさらに問題なのは、任務遂行のための武器使用を認めていることだ。輸送途中で妨害を受けた場合、相手が丸腰でも発砲できるようになる。
自民党は国連平和維持活動(PKO)に派遣された自衛隊が他国部隊を救出する「駆けつけ警護」を認めるべきだと主張しており、ひとたび武器使用基準が緩和されればPKO論議に波及する。海外での武力行使を禁じた憲法九条の解釈変更につながりかねない。
現行法でも自衛隊の保護下に入った邦人や外国人を守るための発砲は認めており、空港や港での活動としては十分といえる。
これまでも政府は紛争地からの帰国や政情不安な国への渡航自粛を呼びかけてきた。今後、求められるのは情報収集力を強化して、危機管理体制を整えることにある。危険が察知できれば、邦人の早期帰国につながる。
米国やロシア、フィリピンなどは事あらば民間航空機をチャーターして、いち早く自国民を帰国させる。学ぶべき手法だろう。情報も土地勘もない外国に武装した自衛隊を送り込む「救出」論議が最優先であるはずがない。
この記事を印刷する