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中国で環境の問題を取材して「病む天地」と題する記事を書いたのは、かれこれ20年も前になる。経済発展の奔流がいよいよ急になった頃だが、すでに大都市や周縁では、空も河川も汚染にむしばまれていた。酸性雨が「空中鬼」と呼ばれるのもそのときに教わった▼環境保護の担当者は、経済との「板挟み」を嘆いていた。たとえば石炭火力発電所に、先進国では当たり前の脱硫装置をつけたい。だが、それより発電施設の増強が優先される、と。以来これまで中国は「環境より経済」で突っ走ってきた▼その因果と言うべきか。伝えられる北京の大気汚染がすさまじい。子どもらは咳(せ)き込んで病院に詰めかけている。一説では、汚染のひどい日に北京に一日いると、たばこを21本吸うのに等しいという▼北京駐在が2度目の同僚は、前回は帯同した妻と子が年中咳をしていた。それが帰国するとぴたりと止まった。いわゆる「北京咳」である。その同僚も、ここまでひどい空は初めて見るそうだ。マスクなど焼け石に水の感じだ、と不安がる▼経済発展に爆走する中国は、踊り続ける赤い靴をはいてしまったアンデルセン童話を思わせる。経済が「踊り」をやめれば、成長の果実を求める民衆の不満は噴出する。政府が一番恐れることらしい▼壊せば容易には戻らないのが自然環境であり、深刻な公害は人の命を無残に奪う。日本にも悔いがある。病んだ天地を癒やし、人命と人権を尊びたい。13億の国の舵取(かじと)りを、世界は見ている。