<旬を喰(くら)うこととはつまり土を喰うことだろう>。九歳から禅寺に預けられて、畑で取れたばかりの野菜を余さずに使う精進料理の極意を学んだ水上勉さんの言葉である▼ホウレンソウのおひたしをつくった時のこと。手を抜いて洗いにくい赤い根を使わないと、老師から「いちばん、うまいとこを捨ててしもたらあかんがな」と諭された。言う通りにすると、緑に赤が交じり、見た目も美しく、根の甘さが味を引き立てた(『土を喰う日々』)▼ホウレンソウやコマツナがおいしい季節である。たっぷりの湯でさっとゆでて、かつお節で取っただしとしょうゆを合わせかける。もちろん根も細かく刻む。まさに土を喰うような旬の味。いくらでも食べられる気がする▼土のにおいのする野菜といえばカブだろう。葉も漬物やみそ汁の具になり無駄がない。<大鍋に煮くづれ甘きかぶらかな>河東碧梧桐。すぐに煮崩れるが、だしが染みてうまい▼きのうは南から暖かい空気が流れ込み、全国的に穏やかな一日だった。東京の都心では、最高気温が二〇度を超えた。立春の前に二〇度以上になったのは一九六九年以来、四十四年ぶりという▼自転車の後ろに座った幼い子どもが「もう春だね」と母親に声を掛けていた。梅園も赤い花が咲き始めた。残念ながら暖かかったのは一日限り。再び真冬の寒さに戻る。きょうは節分。