HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 64304 Content-Type: text/html ETag: "106c7c9-19f2-2453c0" Cache-Control: max-age=1 Expires: Sun, 03 Feb 2013 00:21:05 GMT Date: Sun, 03 Feb 2013 00:21:04 GMT Connection: close
去年の秋、朝日歌壇に二つの歌が並んでいた。〈ごんぎつねも通ったはずの川堤(かわづつみ)燃えあがるようにヒガンバナ咲く〉中村桃子。〈名にし負わば違(たが)わず咲きし彼岸花ごんぎつねの里真赤に染めて〉伊東紀美子。どちらも愛知の方(かた)である▼その愛知県半田市に、童話「ごんぎつね」などを書いた新美南吉の生家や記念館がある。今年が生誕百年と聞いて訪ねてみた。朗読会や音楽祭といった多彩な催しが計画され、地元は四季を通して華やぎそうだ▼同時に没後70年でもあり、三十路(みそじ)に届かぬ夭折(ようせつ)が惜しい。国民的童話といえる「ごんぎつね」は18歳のとき世に出た。1956(昭和31)年から小学教科書に載り、教室で読んだ子は6千万人を超えるという▼この短い一話が、どれほどの幼い心に、やさしさや哀(かな)しさをそっと沈めてきたか。その広がりには大文豪もかなうまい。「ごん」に限らず、人生の初期に出会うすぐれた読み物には、たましいの故郷のような懐かしさが消え去らない▼記念館の学芸員遠山光嗣さんによれば、「ごん」の結末はなぜ悲しいの?という質問が時々あるそうだ。わかり合えないことやすれ違いがどうしようもなくあることを、南吉は言いたかったのでは、と答えることにしているという▼近年は、母子(ははこ)の狐(きつね)の「手袋を買いに」も「ごん」にならぶ人気があるそうだ。〈里にいでて手袋買ひし子狐の童話のあはれ雪降るゆふべ〉と皇后さまは詠まれている。南吉は古びることなく、人の心を洗い、ふくらます。