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海を渡って幸せだったのかどうか、しわに埋もれた目は多くを語らない。東京・井(い)の頭(かしら)自然文化園のアジアゾウが66歳になり、日本で飼われてきたゾウの長寿記録を塗り替えた▼はな子は1949(昭和24)年、2歳でタイから来た。戦後初の輸入ゾウとして人気を呼んだが、まず、ねぐらに忍び込んだ酔っぱらいを、次に持病で倒れた職員を死なせてしまう。荒れる巨体は鎖につながれ、処分を迫る声も出た。幸い、新しい飼育係が鎖を解き、人間不信を癒やしてゆく▼その名は、戦中の猛獣処分で餓死させられた上野動物園の花子を継ぐ。餌ほしさに芸を見せる花子の悲話と同様、はな子の波乱の半生も童話や手記になった。ゾウの威容はそれ自体ドラマチックだ▼平和の世、優れた飼育技術が行き渡り、今や動物園も長寿社会である。輸入規制により仲間を増やしにくい種もある中、人気者の老境をどこまで見せるか、施設の悩みは深い▼コアラの国内最高齢は現在、91年に生まれた大阪・天王寺動物園のミクで、人間なら100歳。握力が衰え、たびたび木から落ちるため、通常120センチという止まり木の高さを約半分にした。樹上の主らしからぬ姿は忍びないと、非公開で余生を送る▼大阪生まれのミクのように、自然界を知らぬまま天寿を全うするものも多い。動物たちはただ生きているだけで、命や地球に関わる深遠なメッセージを発し続ける。むろん人間についても多くを教えてくれる。愚かさと弱さ、そして優しさも。