中国共産党の習近平総書記が訪中した公明党の山口那津男代表と会談したことは、対話再開に向けた一歩だといえる。粘り強く現実的な外交で、日中関係改善の糸口をぜひにも、つかんでほしい。
日本政府が昨年九月、尖閣諸島を国有化したことに中国が反発し日中関係は国交正常化以降で最悪と言われる状態にあった。
こうした事態になって以降、中国共産党トップが政権与党の党首と会談したのは初めてである。
安倍政権の成立後、中国側は尖閣の国有化について「民主党政権の決定」として新政権との対話は拒まない姿勢を示していた。議員外交によってようやく実現した対話の機運を大切にしてほしい。
安倍晋三首相は新政権スタート直後の会見では、靖国神社参拝を明言せず、選挙中に訴えてきた「尖閣諸島への公務員の常駐検討」の公約にも触れなかった。
憲法問題などでタカ派色が批判される面はあるが、安倍政権は対中外交では冷静な対応で対話再開に道筋をつけたといえる。
公明党は、中国で対日外交に影響力を持つ唐家〓元国務委員や程永華駐日大使らと太いパイプを持つ。日中関係を重視してきた実績も会談実現に弾みとなった。
昨年末、北京に着任した木寺昌人・駐中国大使は「第一の任務は日中の友好関係を深め、広げることだ」と述べた。
民主党政権時代は、与党政治家の対中パイプが細く、外交をバックアップする力に欠けていた。
安倍首相は前に政権を担った二〇〇六年、「氷を砕く旅」として訪中し、戦略的互恵関係の構築で合意した実績がある。日中友好議連会長の高村正彦自民党副総裁も近くの訪中を検討している。
政凍経冷とでも言えるような難局だけに、大いに政治の力を発揮し、隣国との関係を改善軌道に乗せてほしい。
習総書記は尖閣問題で「対話と協議で解決していく努力が重要だ」と述べた。双方が歩みよる努力をすることに異論はない。民主党政権は「(一時棚上げという)約束は存在しない」と閣議決定し、政治の知恵といえる棚上げ論を否定した。
日本に主権があることは疑いもない事実だが、国際社会で外交上の係争地と見られていることはそれも現実として否定できない。
それらを踏まえ、何よりも武力紛争が起こらないよう、対話を進めることが肝要である。
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