デフレ脱却に向け、日銀の金融政策が大きく転換した。消費者物価を前年比2%上昇させる物価目標を導入し、進み具合に説明責任を負う。同時に打ち出した緩和策が力不足なのはどういうことか。
政府と日銀の共同声明は、それぞれの役割と責任を明確にしており、妥当な内容に落ち着いたといえる。日銀は2%の物価目標の「できるだけ早期の実現」を目指し金融緩和を続ける。政府は財政規律に目配りし、日本経済の競争力や成長力強化に向けて取り組む。
そのうえで金融政策と物価情勢は三カ月おきに経済財政諮問会議の場で検証する。物価2%上昇という非常に高い目標を達成するには、政府と日銀が連携して取り組まなければならないのは当然だ。
これでようやく「世界標準」の金融政策に大枠は追いついた。すなわち政策目標は政府と日銀が連携して決め、その手段・手法については日銀の独立性を尊重して日銀に委ねる。目標達成の度合いに日銀は説明責任を負う仕組みだ。
これまでの日銀は、たびたび政府と遊離した独自の金融政策で失策を重ねてきた。あと一歩でデフレ脱却に近づいた二〇〇六年三月に量的緩和政策をやめ、景気の失速を招いた。〇〇年のゼロ金利解除も同様だ。日銀はよく「世界最強の中央銀行」といわれるが、それは「何をやっても責任を問われないため」という皮肉である。
物価目標政策は、従来の「1%をめど」といったあいまいさを排し、日銀の「責任」を明確にするものだ。肝心なのは目標を実現することだが、日銀が物価目標と同時に決めた緩和策は、相変わらずの小出しで力不足だ。金融機関から国債などを買い入れる緩和策について「一四年以降は期限を定めずに買い続ける」と無期限緩和を決めた。ところが実際は、金融資産の満期が来て残高が減る分に相当する額を買い足すにすぎない。これまでと大差なく、大胆な緩和とはほど遠いのである。
物価目標は金融緩和の本気度を示すことではじめて物価が上がるとの予測が広がり、消費や投資につながっていく。日銀がこれまでと同じような政策を取り続けるのであれば、責任を果たすように日銀法の改正も視野に入れる必要が出てくるのではないか。
デフレ脱却の目的は、当然ながら国民生活の向上である。物価が上がり、賃金や雇用の改善が伴わないと意味がない。政府と日銀、両者の覚悟が問われている。
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