西郷隆盛が残した<児孫のために美田を買わず>という言葉は、「子孫を堕落させないために財産を残さない方がいい」という小さな意味ではないという▼原典は、西郷が書いた漢詩『偶成』。通して読めば、西郷が言いたかったのは「志を果たすためにすべてのものを犠牲にせよ」ということだったと分かる(山口智司著『名言の正体』)。無私の人には、現代の骨肉の相続争いなど、信じられないことだろう▼先日発表された政府の緊急経済対策に、祖父母が孫などに教育資金を一括贈与した場合、贈与税を非課税にする減免措置が盛り込まれた。一人当たりの上限一千五百万円。三年程度の時限措置を受け、学習塾の株が急騰した▼消費に回らない高齢者の保有資産を次世代に回す狙いは分かるが、一括贈与できるのは相当な富裕層だ。税率がアップになる相続税の抜け道に見えてしまう▼デフレからの脱却を目指す政府と日銀はきのう、2%の物価上昇率の目標を盛り込んだ共同声明を発表した。日銀が拒んできた明確な物価目標の導入と無期限の金融緩和だ▼安倍政権の発足で為替相場は円安に大きく傾き、株価も上昇している。円安は輸出産業には朗報だが、燃料の輸入コストの増加につながり、生活必需品は値上がりする。所得が増えなければ、物価上昇が直撃するのは相続税とは無縁の人々の暮らしである。