「フランスは地獄の門を開いた」。西アフリカのマリでイスラム武装勢力を率いる「赤鬚(ひげ)」の異名を持つ男が、こう語ったという▼まさに、地獄を見る思いだ。マリの北隣アルジェリアで起きた人質事件は、鎮圧作戦実施が伝えられたが、人質の多くの安否は分からない。無事の知らせを待つご家族にとり残酷なほど重い時間が流れる▼「地獄の門を開いた」とされるのは、フランスによるマリのイスラム武装勢力への空爆だ。マリで急激に台頭した勢力を叩(たた)きつぶそうという軍事作戦だが、この手の作戦がもくろみ通り進んだ例(ためし)は、ほとんどない▼なぜか。軍事作戦を進める側が、武装勢力の実像をつかめていないからだ。情報はここでも錯綜(さくそう)する。現地からの報道も「麻薬密輸や誘拐の身代金稼ぎの無法者」との情報もあれば、「権力が腐敗した地に秩序をもたらし、貧困層対策で支持を得ている」との指摘もある▼恐らく、どちらも彼らの「顔」なのだろう。広大なあの地で反政府活動をする様々な人々を「テロリスト」と一緒くたに呼び、ただ軍事攻撃の的とする限り、彼らの実像は見えてこないはずだ▼ドビルパン元仏首相が「この戦争はフランスの戦争ではない」「戦争という袋小路から抜け出す新たなモデルをみつけるのが、わが国の義務だ」と言っている。悲劇を繰り返さぬための、各国共通の義務だろう。