安倍政権の東南アジア重視が鮮明だ。この地域の成長力と地政学的価値は上昇している。平和の海実現にそれらの国との連携は重要だが、対中包囲網とばかり見られては地域の利を損ないかねない。
安倍晋三首相は、新政権初の外遊として、ベトナム、タイ、インドネシアの三カ国歴訪をスタートさせた。麻生太郎副総理や岸田文雄外相も、最初の訪問国に東南アジア諸国を選んだ。
政権発足直後に世界の成長センターといわれる東南アジア諸国連合(ASEAN)十カ国のうち七カ国を訪問することになる。
経済再生を最優先する政権として、足元の友好国をしっかり見つめ直し、交流を活発化させる外交方針を歓迎したい。
首相が訪問している三カ国およびフィリピンとわが国は、アジア地域で戦略的パートナーシップを結ぶ関係の深い国々だ。
今年は日本とASEANの友好協力四十周年にあたる。首相自ら足を運び、地域の安定と繁栄のため、戦略的互恵関係を確認することには大きな意義があろう。
タイには国内政治の混乱があったとはいえ小泉政権以来、十一年ぶりの首相訪問となる。日本が最大の輸出相手国であり、今年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)議長国であるインドネシア訪問も五年半ぶりである。
三十六年前に、福田赳夫首相は、東南アジア外交で▽日本は軍事大国にならない▽心と心の触れ合う関係をつくる▽対等なパートナーになる−などを柱とする福田ドクトリン(原則)を公表した。
この精神を貫徹し、長い交流のあるASEANとの関係を深める旅としてほしい。
対中関係でも、ASEANとの連携が重要で効果的であることに異論はない。ASEANには南シナ海で中国と領土問題を抱える国々がある。
米オバマ政権は中東からアジア重視の外交にカジを切った。もしも、安倍政権が日本の立場だけから強硬になれば、中
国に「対中包囲網」との警戒感を強めさせ、逆に地域全体の未来を損ないかねない。
中国は昨年秋のASEAN首脳会議で、南シナ海で関係国の活動を法的に拘束する行動規範の策定を先送りした。非建設的な態度であった。平和の海を実現するルール作りに中国が参加するよう、ASEANと手を携えて働きかけていきたい。
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