インターネットなどでの医薬品の販売が認められた。通販会社が、販売する権利を求めた訴訟で最高裁はこう判断した。今後は、国も業界も安全で便利な販売ルールの整備に知恵を絞るべきだ。
かぜ薬や胃腸薬など市販薬の多くは、ネットや電話による通信販売ができない。二〇〇九年の改正薬事法施行の際、省令で禁止したからだ。
ビタミン剤など一部の薬をのぞき、薬局などで薬剤師が対面で売る。使用法などの説明を十分に行うためで、ネットだとそれが不十分になるとの考え方からだ。
しかし薬局が近くにない地域の住民や、気軽に店舗に行けない高齢者、障害者は困ってしまう。
それまでネット販売していた通販会社二社が、国を相手取り販売する権利の確認を求めて提訴していた。一〇年の東京地裁は国の主張を認め原告が敗訴した。
昨年の東京高裁は一審判決を取り消し、販売を認める判決を言い渡した。「ネット販売の禁止は改正法には明記がない。健康被害などの実態の検証も不十分だ。なのに厚生労働省の判断で定める省令で禁止し国民の権利を制限したことは違法で無効」と判断した。
そもそも改正法の狙いは、医療機関に頼らず自身で健康を管理するセルフメディケーションを進めることだ。それは医療費の削減にもなる。誰でも必要なときに購入できるネット販売の禁止はむしろそれに逆行する。やはり消費者の判断と選択を尊重すべきだろう。
ただ、販売には安全性確保に懸念もある。勝訴した通販会社ケンコーコムの後藤玄利社長は「安全性と利便性は両立できる」と強調した。安全な販売方法を考えるときにきている。
ネット販売を認めている米英では、登録制度などで薬局を監督し、販売に目を光らせている。
日本でもネット販売に反対する薬局などの業界団体が販売ルールを提案した。店舗を持つ業者に限ったり、初回は店舗で買ってもらい情報提供の機会を増やすなど具体的だ。参考になる。
厚労省は規制を続けるのではなく、販売の方法や実態把握、監督・指導をルール化し、環境整備を進めるべきだ。
薬局での販売も薬剤師の説明が必ずしも十分ではない。薬の正しい使用法をいかに理解してもらうか努力の余地がある。消費者の利益を最優先に考えるべきだ。
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