日本の政治が再始動しました。今年夏には最大の「決戦」である参院選を迎えます。政治が国民の望まぬ方向に進まぬよう、しっかり「環視」せねば。
安倍晋三さんにとっては、六年ぶり二度目となる首相としてのお正月です。年末年始の休みには十分英気を養い、今年一年、日本政治のかじをどう取るのか、構想を練ったことでしょう。
公約を破り、政権運営にも誠実さを欠いた民主党から自民党への政権交代。参院選までの約半年間に、国民の暮らしが上向く見通しを付けなければ、ねじれ国会による政治の混乱が続くという緊張感の中での始まりです。
責任の大半、自民に
安倍内閣の仕事始めは恒例の伊勢神宮参拝と年頭記者会見です。
首相は会見で、越年した二〇一三年度予算案の編成について「民主党政権で水膨れした歳出の無駄をカットし、内容を大胆に重点化する」と語りました。
国と地方の借金が一千兆円近い危機的な財政状況では予算全体を見直し、無駄を削り、本当に必要な事業に投入するのは当然です。
しかし、自民党政権にそれが本当にできるのか、完全には信用できない。行政の無駄遣いを続け、国の借金をそこまで膨らませた責任のほとんどは、長年政権を担ってきた自民党にあるからです。民主党批判には何の意味もない。
当面の注目は一二年度補正予算案です。消費税増税の前提条件となる景気回復を確実にするためなのでしょう。十兆円規模という大型ですが、公共事業のバラマキだけは避けるべきだ。
公共事業は景気が一時的に回復しても、経済全体への波及効果は限定的。消費税増税後に景気が冷え込み、国民の暮らしが疲弊しては目も当てられない。策定中の緊急経済対策は、民間経済の活性化を重視する内容にすべきです。
「お任せ」を脱して
昨年八月に消費税増税法が成立した後、どうも財政のタガが緩み始めてはいないか。
東日本大震災からの復興とともに首都圏直下型や東海、東南海、南海三連動での地震が想定される中、防災・減災対策は急務です。
「国土強靱(きょうじん)化」という呼び名はともかく、国民の命と財産を守るための社会資本整備という国の役割に、予算が正しく使われるのなら、国民も納得がいくでしょう。
しかし、前政権で復興予算の流用が明らかになったように、どうも日本の行政組織は、隙あらば、自分たちの都合いいように予算を使う傾向があるようです。
国民の負託を受けた国会議員がそれを監視するのではなく、官僚に丸め込まれて予算の膨張に手を貸すようなことは許されません。
長年、政官財癒着構造のど真ん中にいた自民党には正念場です。自民党が「生まれ変わった」というのなら、建設業界や農業団体など、ときに自らの支持基盤にも、痛みを強いるような大胆な改革も必要ではないでしょうか。それができないのなら「古い自民党」の看板を甘受するしかあるまい。
もちろん選挙は国民の厳粛な選択です。しかし、小選挙区制中心の衆院選挙制度は、政権交代の可能性を高める分、民意を正確に反映しないという欠点もあります。
国民が望む政治の実現には、選挙後はすべて議員に委ねるという「お任せ民主主義」を脱し、声を出し続けることが必要です。
首相は年頭会見で原発の新規建設について「直ちに判断できる問題ではない。ある程度、時間をかけて検討する」とも述べました。
自民党は昨年の衆院選で、三年間は最大限、再生可能エネルギー導入、省エネ推進を図り、持続可能な電源構成の組み合わせを十年以内に確立すると公約しました。
原発稼働継続の容認と受け止められましたが、稼働継続を堂々と掲げて信任されたわけでもない。原発稼働継続に批判が高まれば、自民党政権といえども再稼働強行や新設などできないでしょう。
そのためにも国民が思いを声に出して、政治に携わるものに届ける。何よりも大切なことです。
国民が無関心を決め込んだ瞬間、政治は暴走を始め、国民を苦しめる側に回ります。
主権者は国民自身
憲法改正や集団的自衛権の行使容認を掲げる自民党ですが、参院選で勝つまでは、そうした「安倍カラー」は抑えるのでしょう。
そんな政権の狙いに惑わされたり、ひるんだりする必要はありません。国会議員の当落や政治の在り方を決めるのは、あくまでも主権者たる日本国民自身です。国民の思いから遊離した政治などあり得ないし、許されてはならない。
投票が終わっても政治の成り行きを「皆で見ているぞ」という政治参加、「環視」する態度こそが暴走を阻む力になるはずです。
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