ソ連時代のロシアに確か、こんなアネクドート(小話)があった。あの世の下見に出掛けた男の話だ▼何とそこでは、品のなさで評判が悪かったソ連のフルシチョフ首相が、「フランスのマリリン・モンロー」と称される女優ブリジット・バルドーさんと楽しくやっている▼男が「何てことだ、フルシチョフでさえ天国に行けるのか!それなら俺でも」と言うと、あの世の番人がたしなめた。「勘違いするな。ここは男の天国ではない。女の地獄だ」▼七十八歳になったバルドーさんが、“ロシア亡命”を考えていると聞いたら、あの世のフルシチョフ氏も仰天するだろう。動物愛護活動家として知られるバルドーさんは、仏リヨンの動物園で飼われている象が病気のため殺処分されるのに怒って、「象を殺すなら、動物の墓場と化したフランスを去り、ロシア国籍を取る」と、息巻いている▼一足先には、風貌魁偉(かいい)な俳優ジェラール・ドパルデューさん(64)が、仏新政権の富裕層増税に反対してロシア国籍を申請、プーチン大統領に歓迎されている。仏の富裕層への税率は75%で、ロシアの所得税は13%。ロシアの副首相は「金持ちの欧州人がどんどんロシアに来るだろう」とほくそ笑む▼かつてソ連の反体制文化人らは自由を求め、西欧に亡命した。今や西欧の金持ちがロシアに逃れる。事実は、アネクドートより奇なり。