HTTP/1.1 200 OK Date: Sun, 30 Dec 2012 02:21:04 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:年のおわりに考える 「未定」で生きている:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

年のおわりに考える 「未定」で生きている

 東日本大震災から二度目の年の瀬です。復旧復興はままならず、生活再建に遠い厳冬です。被災者たちの「希望」の声に政治は応えねばなりません。

 浜辺にある巨大な白い漆喰(しっくい)壁は、山を背に、青い海に向かっています。氷点下の風が鳴り、打ち寄せる波が轟音(ごうおん)を立てます。

 石巻市雄勝町(宮城)にある「希望のキャンバス」は、高さ四メートル、長さ四十メートルもあります。がれきの木材などを骨格にして、地元の土が塗られています。岐阜県の左官職人・挟土(はさど)秀平さんらが今月初めに作りました。

 <父さん 大波 小波に負けず頑張ります><じいちゃんから学んだこと(中略)生きる姿勢 継いでいきます>

 きっと家族を亡くした人なのでしょう。被災者たちの思いの言葉が墨で書かれています。

 宮城県の左官業・今野等さん(45)も手伝いました。石巻市にあった自宅は、大津波に流され、母親を亡くしました。大勢の児童が犠牲になった大川小学校から約五百メートルの距離でした。

 「津波の後、船を出したら、周りは遺体ばかりでした。中にはまだ生きている子どももいて、おんぶして、搬送しました」

 仙台や石巻のアパートから妻と子で、同県内の家に移ったのは今年五月です。父親はまだ仮設住宅に住んでいます。

 「約百四十人いた地区住民の半分は亡くなりました。仮設の人の望みは何といっても、住む所です。自立したいのに、代替地がない。何年、待ったらいいのか…。海の人たちは強く、前向きですが、今は足踏み状態です。ストレスがたまっています」

◆心が「難民」の状態で

 今野さんは「みんな『予定』がなくなり、『未定』になった」と言います。確かにわれわれは「予定」の世界で生きています。学校を卒業したら、結婚したら、定年を迎えたら…。将来を描き、予定を立て、日々を営んでいます。

 大震災はそんな「予定」をぶち壊し、先の読めない「未定」の世界に放り込んでしまったのです。

 福島第一原発の被災者たちも同じです。原発のある福島県大熊町の人々の96%は「帰還困難区域」に家があります。

 「ほとんどの人は家に帰るのは、もう無理だと思っています」と語るのは、同町でただ一人の司法書士・菅波佳子さん(42)です。各地に散りぢりになった町民の相談にのっています。

 相続登記や賠償金の案件が多いそうです。不動産の所有者が誰かはっきりしないと、賠償金の支払いが受けられないからです。

 「問題は今後、自分がどこに落ち着いたらいいのか、わからないことです。多くは役場機能にくっついて、会津若松(福島)やいわき(同)の仮設住宅に入っているだけです」

 大熊町の役場は出張所が会津若松市、連絡事務所がいわき市にあります。でも、そこが自分の場所とは考えられないのです。

 「心が『難民』の状態なのです」とも菅波さんは言いました。「自立したくとも、見つかる仕事は多くはアルバイト程度です。先が見えません。これからどう生きていっていいのか、誰もが心が定まらないのです」

 原発被害の精神的損害への賠償がなされています。その五年分を一括払いし、不動産も事故前の公示価格で買い取る案があります。でも、「町民は誰も納得していない」と聞きました。

 「なぜ公示価格なのか」「町ごと買い取ってほしい」などの声が上がっているそうです。根本はお金の問題ではありません。むしろ、「今までの生活に戻してほしい」という気持ちが強いのです。

 原発事故の恐ろしさは、生活も環境もすべて根こそぎ壊したことです。古里を喪失した理不尽さから逃れられないまま、「仮設」という中ぶらりんの空間で暮らしています。だから、心が「難民」状態なのでしょう。

 菅波さんは「私自身も心が定まりません」とこぼします。

◆浜辺に書かれた古里

 雄勝町の浜辺にある漆喰壁には、こんな言葉もありました。

 <ふるさと とわに>

 <現在・過去・未来。いつも いつでも 故郷はここ雄勝>

 お正月はとりわけ古里が恋しい季節です。でも、大震災と原発事故は、古里の風景も、「予定」も奪いました。いまだに避難者は約三十二万一千人もおり、約十一万四千人が仮設住宅で生活しています。住宅や雇用、教育…。「未定」という空白を急いで埋める政策こそ、希望につながる道です。

 

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