第二次安倍内閣が始動した。市場は円安・株高が進む歓迎ムードである。期待を裏切らないためには、公共事業のばらまきや既得権益保護といった旧来の自民党政治とは違う姿を示す必要がある。
経済再生を最優先課題に掲げるだけあって重厚な布陣には見える。「大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の三本の矢で経済政策を力強く進める」という安倍晋三首相の意気込みも伝わってくる。だが、それでも気がかりがある。民主党に政権を譲る前に閣僚を務めた顔触れも多く、民意が一度ノーを突き付けた「古いままの自民」の復活ではないかとの不安である。
見極めるポイントは二つある。一つは、「安全・安心のため」といった美名の下に無駄や優先度の低い公共事業までもばらまくのではないかという懸念だ。まずは十兆円規模といわれる大型補正予算の中身が試金石になる。
確かに高度成長期に整備された道路や橋などのインフラは半世紀近くたって老朽化が目立ち、補強・改修は最優先で取り組むべき公共投資である。しかし、緊急性が低かったり、非効率な事業がなし崩し的に行われれば、財政赤字が積み上がるばかりとなる。事業の峻別(しゅんべつ)を厳格に行い、財政規律への目配りも欠かせない。
民主党政権は、無駄な事業を減らすために予算編成過程を可視化する改革(二〇〇九年十月の閣議決定)を実現した。「各目明細書」や「行政事業レビュー」を公開させ、国民は各省庁がどんな事業にどれだけの予算を獲得したかがインターネットで閲覧可能となった。かつてとは違い、国民のチェックが届きやすくなったことを自民党は肝に銘じる必要がある。
もう一つは、規制改革を幅広く進めるといいながら、はたして農業や医療、電力など、これまで既得権益を守ってきた分野に切り込めるかという点だ。例えば、有望な成長分野になりうる農業に株式会社の参入を全面解禁するのか。地域独占などさまざまな規制を温存してきた電力体制の改革を本気で進める覚悟があるのか。
経済界の雄だった電力会社や農協、医師会などの有力スポンサーと「持ちつ持たれつ」の関係こそが自民党政治だった。しかし、そういう非効率な部分にメスを入れていかないかぎり、確かな経済成長など望めないのは明らかだ。長期低迷する日本経済の浮上には、自民党の体質改善が欠かせない。
この記事を印刷する