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大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。会員登録すると、過去50日間分の天声人語のほか、朝刊で声やオピニオンも読むことができます。
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松井秀喜選手は日本で332本の本塁打を打った。渡米して初のアーチは本拠地ヤンキースタジアムでの顔見せの初戦、しかも満塁弾だった。試合後の言葉がよかった。「333本目ではなく、1本目です」。ニューヨークに住む日本人が大いに沸いたのが記憶に新しい▼その年、大リーグの開幕を前にイラク戦争が始まった。兵士の無事帰還を願う黄色いリボンが全米にあふれ、日本人社会も空気は重かった。「マツイ、すごいね」。ニューヨーカーの賛辞を、我がことのように聞いたものだ▼あれから10シーズン、松井選手の引退会見をテレビで見た。口を一文字に結ぶ表情で、言葉をさぐるように話す。「結果が出なくなった。命がけのプレーも終わりを迎えた」。38歳。万感を押し殺すような、男の顔だった▼大リーグではホームランを175本放った。その記録以上に、存在感は記憶に残る。3年前のワールドシリーズ制覇のときは、日本人初の最優秀選手(MVP)に輝いた▼日本球界に戻る選択もあっただろう。だが「10年前の姿に戻る自信が強く持てなかった」と語った。「巨人の4番」の伝統に、自らの誇りを重ねた胸の内にうなずく。たとえばの話、6番を打つ松井秀喜は、もうゴジラではない▼大リーグのある監督が言ったそうだ。「野球には五つしかない。走る、投げる、捕る、打つ、そして力いっぱい打つことだ」。ただ打つのではない。巨漢に伍(ご)して力いっぱい打ち続けた「挑戦の人」に、拍手を送りたい。